いつも隣にいた。いつも笑い合っていた。それが当たり前だった。
背中を預ける事もあったし、預けられる事もあった。
思い出を数えるのなんて、一生かかっても無理だろう。
終わりがあるなんて、考えた事もなかった。

サンジのことが、好きなのかもしれない、と気づいたのはいつだったか。
フェミニストで、どんな女性にも愛をささやける彼を好きになるのは、とても辛いだろうな、と思っていた矢先だった気がする。
海賊である事を後悔した事はないし、むしろ誇りに思っているけれど。
生い立ちからしてあまり女性扱いされた事のない私にとって、サンジの言動がとてもむずがゆくて。
でも、それと同時にとても嬉しかったりしたのだ。
それが、恋に変身するのは、もしかしたら至極普通の事だったのかもしれない。

背負った彼がずり落ちそうになる。
細身だけれど、しっかりとした筋肉がついているので、とても重い。
普段は軽やかに、まるで羽が生えているのではと思わせるくらい動いていたのに
今はもう、ぴくりとも動かない。その事実がどうしようもなく、私を苛立たせる。

今まで、どんな攻撃を受けても立ち上がった人が、たった一発の銃弾に倒れるという事がどういう事なのか、よく分からなかった。
やはり彼も人間だったのか、と喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。
いつだったか、全身つるつるの人形みたいになった時は、本当におかしかった。
小さく笑うと、また背中にいるサンジが落ちそうになる。


「もう少しで、サニーに着くよ」


返事はない。
当たり前だ、彼はもうこと切れているのだから。

一瞬の出来事だった。
ふたりで街中をブラついていたら、海軍に見つかって。慌てて引き返したけれど、発砲されて。
私に向かって放たれた銃弾を、自らを盾にして防いだサンジ。見事に弾は彼の心臓を射止めた。
こういう時に限って、チョッパーとは別々で。さらに、港からはとても遠い場所にいた私達。
私が肩を貸して、人ごみに紛れて逃げたものの、彼の顔色はだんだんと白くなっいった。
体温は下がり、呼吸すらままならなくて、すぐ横にある私の顔さえ見えなくなって。
気がつけば、私の言葉に返事をしなくなっていた。

どうして、サンジが死ななくちゃいけなかったんだろう。
どうして、私なんかを庇ったんだろう。仲間だから? 女性だから?
どうして、涙が出てこないんだろう。

まるで氷の彫像を背負っている気分だった。
否、そうであったらどれだけ救われたか。
何度確認しても、私が背負っているのは息をしていないサンジで。

彼が息を引き取ったのは、路地裏だった。
ままならなかった呼吸が次第に弱くなって、蝋燭の炎が消えるようにすぅっと途絶えた。
それから、ゆすっても頬を叩いても、名前を呼んでも反応はなかった。
穴の開いた、血液で汚れている胸に耳をあてても、音は聞こえず。
ああ、彼は逝ってしまったんだな、と。
涙を流す前に、彼を背負った。そして、歩き出した。
とにもかくにも私は、そしておそらく彼も、船に帰りたかった。仲間の顔が見たかった。

辺り一面オレンジ色で、時間が大体夕暮時なのを悟った。
時折、ずれる彼を背負い直しながら、ただ船を目指して歩いた。

ふと振り返れば、歩いてきた道の上に、赤い点が。
きっとサンジの体から滴った血液だろう。まるで、道標みたいだ。
それが、なんだか私とサンジの思い出のひとつひとつみたいで。
じんわりと熱くなる目頭に、気づいていないフリをした。

もうすぐ、きっと船に着く。さあ、帰ろう。