人間、時々無性に泣きたくなる時があると思う。
それが私の場合、ちょうど今なのだ。

きっと人それぞれ理由は違うのだと思う。
愛しい人を思い出してだったり、去ってしまった記憶に対してだったり。

私の場合は、船に自分の居場所を見い出せなくて。

そもそもこの麦藁海賊団の船に乗るきっかけさえ、曖昧で
この船の船医に頼まれた薬を届けた時に、船長に捕まったのがきっかけだから。

普通の家に生まれ、平凡な生活を送ってきた、凡人の鏡のような私にとって
彼らは本当に人間離れした人達で
彼らの誰もが夢を追い、そしてそれに向って着々と進んでいる。

そんな中私は?

乗り込んだきっかけが曖昧なら、どうしても叶えたい夢があるわけでもない。
きっと、ちょっとした好奇心で乗り込んだんだろう。
問いかけているのは、当時の自分に。
今の私はもう、あの頃を思い出せない。

夢がない、そして特技もない。本当にただの人なのだ。

一度、ルフィにこの船にいていいのか、と尋ねた事がある。
その時、ルフィは「いいんだ! 皆が好きだからな!」と嬉しい事を言ってくれた。
けれど、そんな輝いた言葉でさえ、最近の私にとって苦痛でしかない。

その言葉にきっと、嘘はない。
私の問題だ。

私はそんな言葉を言ってもらえるほど、強くもなければ、頭もよくない。
料理もできないし、話も大してできない。医療なんてもっての外。

ああほら、また涙が溢れてくる。

いつか皆に呆れられるんじゃないかって。
どこかに置いて行かれるんじゃないかって。

マイナス思考は考えれば考える程、いとも容易く脳をいっぱいにして
それに比例してどんどん止まらない、流れ続ける涙は海に落ちていく。


?」


後ろでルフィの声がして、咄嗟に涙を拭いて振り返った。
もちろん、バレないように笑顔で。


「なに、どうしたの? ルフィ」


なのに、ルフィは少し膨れっ面で。
なんだろう、少し怖かった。


「なんで泣いてんだよ」

「……泣いてなんか」

「嘘吐くな。その笑った顔はの本当の顔じゃねェ」


そう言って近づいてくるルフィが、少し怖い。
サンジだか、ゾロが言っていた。
「時々アイツは突拍子もなく、核心をつく」って。
きっと今目の前にいる彼がそうなんだろう。


「どうして泣いてんだよ」

「泣いてないよ……」

「じゃあ、なんでここ濡れてんだ?」


触れたあたしの頬は確かに濡れていて、ルフィの指先は温かかった。
そんな真っ直ぐな瞳で、私を見ないで。
全部全部、本当の奥底まで覗かれそうで、暴かれそうで、怖い。
醜くそして汚い私を見られそうで、怖い。


「怒らないから、今考えてる事全部言え」


ルフィがニカッと笑って、それが合図のようにドッと溢れた涙は、もう止まらなさそうだ。
どうしてルフィは欲しいものを、欲しい時に、すぐくれるのだろう。


「私……この船にいていいのかな」


乗り込んだキッカケさえ迷う私は


「みんなみたくっ……夢もなければ特技も、ないし……」


脆く弱く、守ってもらえなければ生きていけなくて


「見つけられないの……いつもいつも……私の居場所」


いつか捨てられるのなら、いっそ今切り捨てて。



フワリと被せられた帽子はルフィの宝物。
それは太陽の匂いがして。
ツバをギュッと握って、子供みたいに泣きじゃくる。
そんな私の背中を、ルフィはずっと擦ってくれていた。

大きくて温かくて。
欲しかったのはこれだったのかな。


は何もなくなんかない」

「え……?」

「おれはが笑ってるだけで、元気が出るんだ」

「う、そ」

「嘘じゃねェ。おれじだけじゃなくて、ゾロだってナミだってウソップだってサンジだって」

「……ふぇ」

「ロビンだってチョッパーだって、みんなお前が笑うから笑うんだ」


ルフィの大きくて頼れる両腕が、優しく私を支える。
全身いっぱいに私を包むルフィの体も、やっぱり太陽の匂いがして。


「無理すんな」

「う、ん……」

「泣きなくなったら、また言えよ。おれが全部聞いてやっから」

「う……ん」

「おれは、が大好きだぞ」


私の頭に顎を乗せたルフィが言った。
染み渡るその心地いい言葉は、輝いていて


「私も、みんなのこと大好きっ……」


また傾いたその時は、真っ先に君の隣に行ってまた慰めて欲しい。
頼りなく、そして醜い私の全てを受け入れてくれた、君がいる船が私の居場所。
優しくて強い仲間が迎えてくれる、そんな船が私の帰る場所。

頼りない私の居場所は、君の隣。