想いは通じ合っているのに、時々とても不安になってしまうのは、わがままなんだろうか。
君の大きな手の平に頭を撫でられている時とか、ふとした瞬間に交わしたキスの合間とか。
数えればキリがないけれど、私はそうやって時々、不安になってしまう。
でも、その不安をカクに伝えた事はないのだ。


私の部屋で、ベッドの上で、カクを座椅子にして、私は雑誌を読んでいる。
カクは真正面にあるテレビを見ていて、彼の両手は私のお腹の上で組まれている。
テレビから流れる音、ぺらぺらと紙の捲れる音。
突然、急にこの体温が離れてしまう事を想像して、うすら寒くなる。
振り返れば、どこか退屈そうにテレビに目線を向けていたのに、私を見下ろす。
それからニコッと笑って、頬にキスを落としてくれた。
それだけの事なのに、不安はたちまち消えていく。
満足した私は、また雑誌に目を向ける。


「本当に、は可愛いのう」

「えー、急にどうしたの?」

「いつも思っとるよ」


そう言って、私の顔に頬ずりをしてくる。
雑誌を捲っていた手を取られ、指を交差するように握られた。


「小さい手じゃのう」

「カクが大きいんだよ」


眩暈を起こしそうな程、幸せな筈なのに。
どうしても、いつかこの手が離れてしまう事を考えてしまう。
こんなに近くにいるのに、心は遠くにあるように思ってしまう。
いっその事、体も心も融け合ってひとつになってしまえばいいのに。


、こっち向いてくれ」

「ん?」


雑誌を閉じて、ぐるりと体勢を変える。
向き合う形になって、カクを見つめると、彼の大きな両手が私の頬を包んだ。
そっと顔が近づいてきて、私も瞼を下ろす。
触れる唇と唇。体温が混じって、安堵が広がる。
ただ触れるだけのキスだけれど、どうしようもなく愛おしさが募る。
キスは好きだ、とても好きなのに。離れていくこの瞬間が大嫌いで。
このまま永遠にくっついていられれば、どれだけ幸せなんだろう。

真ん丸な目が、私を見る。その目はまるで、私の全てを見透かすようで。
ドキリとしてしまう。私の考えている事全て、カクに伝わってしまうんじゃないかって。

不満なんて、何もない。
こんなにも私を愛してくれる人は、きっとカク以外この世に存在しないだろうし
こんなにも愛せる人は、やっぱりカク以外いないだろう。
でも、不安になってしまうのだ。

愛せば愛する程、底なし沼のように不安になっていく。
私はいつから、こんなにわがままになったんだろう。


「なあ

「うん」

「お前さんの不安はどうやったら消えるんじゃ?」


真ん丸な目は、全てを見透かしていた。
くしゃりと顔を歪めて、瞳からはぼろぼろと涙が落ち始める。
嗚咽が止まらなくて、そんな私をカクがぎゅっと抱きしめて、背中を擦ってくれた。


「ご、めっ……ん……」

「謝る事なんぞ、何もないぞ」

「好き、なの……カクが、大好き、なの……」

「ワシも、を愛してるぞ」


愛してるの言葉が、じんと体に染み渡る。でも、涙は止まる事を知らなくて。
どうしたら、この不安は消えてくれるんだろうか。


「私、変なの、かなぁ……」

「変?」

「カクは、こんなに優しくて……私のこと、好きでいてくれるのに……」

「そうじゃのう……実はな」


ワシも、不安なんじゃよ

そう言って、カクは私の顔を覗き込んだ。


がいつかワシの傍からいなくなるんじゃなかろうか、とか、愛想を尽かされたらどうしようとか、な」

「そう、なの……?」

「そうじゃよ」


とびきり甘くて柔らかい笑顔で、カクは言った。


「好きだからこそ、愛しているからこそ、不安になるんじゃないかのう」


こつん、と額を合わせて。また両手で頬を包んでくれる。
この不安が愛の証だというなら、不安の大きさの分だけ、愛も大きいんだろうか。


「どうやったら、不安が消えるかは分からんが、お前さんが不安になる度に、傍にいる事を誓うぞ」

「……ずっと、傍に、いてくれる?」

が嫌と言ってもいるぞ」

「ほんと?」

「本当じゃ」


愛おしさが爆発しそうになって、どうしようもないくらい目の前の存在が愛くるしくて。
彼の脇の下に両腕を通して、背中に回してぐっと抱き寄せた。


「カク、大好きだよ」

「ワシもが大好きじゃよ」


生きているうちは、きっと何があってもこの不安は消える事はないんだろう。
でも、君が教えてくれたから。不安すら愛の証だと思えるように。
不安が大きくなればなる程、愛も大きくなるんだって。





いとしきみ





airi様、リクエストありがとうございました!
BGM 「アイネクライネ」 by 米津玄師