言われた通りに任務をこなして、血塗れになって帰ってきた私に
任務を命令した長官であるスパンダムは、微妙な反応を取って
「早く風呂にでも入って、今日のところはさっさと寝ちまえ」と言った。
きっとカリファだったら「セクハラです」とか返す余裕があったんだろうけど
疲弊しきった私に、それ程の余力はなかった。

自室に行くと、相変わらず任務に赴く時と変わらない風景がそこにはあって
埃一つない床に、皺一つないベッド。
そこには私以外の生き物はいない。

必要な物だけを詰めた小さな鞄を、そこら辺に投げてバスルームに向かう。
その向かう途中の道で、一つずつ裸になっていく。
黒いシャツ、黒いパンツ、黒いストッキング。唯一の「自分」を保つ為に
下着だけは自分の好きな柄を選んだ。

熱いシャワーを適当に、頭からかぶると
体を通ったお湯は、ずいぶん真っ赤に染まっていた。
次第にそのお湯も、私の体に触れても変化しなくなって
それに満足して、濡れたままバスルームを後にする。





私しかいなかった筈の部屋に、私以外の生き物の声がした。
俯いていた顔を上げれば、そこにいたのはオレンジ色の髪を持った生き物。


「か、く」

「お前さんはまたそうやって濡れたまま出てくるんじゃの」

「どうして、いるの?」

「長官から、今しがたが部屋に戻ったと聞いたからじゃよ?」


大きな白いバスタオルを、私の頭からスッポリかぶせると
カクは無骨な手の平で、テッペンから爪先まで、わしゃわしゃと拭いた。

頭の上では、意味もなくカクの楽しそうな鼻歌が聞こえる。
その懐かしい程甘い音に、不覚にも涙が溢れそうになって
目の前で動いているタオルを、目元に宛がった。




「……うん?」

「おかえり」


そう言ってカクは私を抱き締める。
幼い子が、眠れない夜にぬいぐるみを抱き締めるように
優しく、それでもどこにもいかせないように。

タオル一枚をまとって、カクの胸で泣いた。
訳もなく哀しかったような、本当は何か訳があったのかもしれない。
けれどそんな事よりも、ただカクが出迎えてくれた事に意味があるような気がして。
いや、それ以外意味がないのかもしれない。


「なんじゃ、は泣き虫じゃの」

「違、うよ……カクの前、でだけだよ……」

「それなら安心じゃ」


私をそのまま抱きかかえて、ベッドまで運ぶカクがまた笑った。










おかえりって言って










Title by:207β