写真を何度も見て覚えた顔が、数十m先を歩いている
気づかれないように、その後を追って路地裏へと入った
途端、かちゃりと後頭部に固い何かが当たるのを感じた

「俺が気がついてないと思った?」

飄々とした声で、そう言われて
まさかの失敗に次の手を必死に考えるも、標的はそれを許さない

「ま、お顔を拝見といこうじゃないの」

後ろにいたターゲットは、回って私の前へと姿を現す

「……女、だとはな。しかも、極上の」

「……お褒めの言葉、ありがと」

「ここ最近、ずっと俺の命を狙ってたのは君だったとはな」

赤いジャケットが憎たらしい
男―ルパン三世―は、私の顔を認識すると、だらしなく顔を緩ませて手を握ってきた
それを振り払い、距離を少し取って鞄の中の銃に手を掛ける
けれどもそこにある筈の物はなく、目の前を見れば
私の銃をくるくると回す奴がいた

自決すら許されなかった私に、残された道は組織に戻って殺される事
どのみち、辿る道が同じならいっその事ここで
そう思って降参のポーズをとる

「ちゃっちゃと殺してよ。どうせ変わらないから」

「俺っち、女の子には手を上げない主義なんでねぇ」

「なら銃返して。組織に戻って拷問の末に殺されるなら、自分で死ぬわ」

「あらら、おっかない事」

「寝首を掻こうって訳じゃないから安心して。別にもうあんたの命に興味はない」

手の平を上に、ひらひらと銃を返すよう求めれば
返ってきたのは柔らかく温かい、同じようで違う手の平だった

「君の命、俺にくれないか?」

「――――は?」

「死ぬくらいならいっそ、俺っちにくれてもいいんじゃないかなーって」

にしし、と愉快そうに笑う男に、一発くれてやりたいくらいだった
けれども渡された選択肢はどうやらそれしかなくて
大袈裟に分かりやすく伝わりやすく、わざと大きなため息を吐いて

「……よ」

「俺っちは」

「ルパン三世、でしょ。嫌ってくらい知ってるわよ、この女たらし」

ふん、と鼻を鳴らせば、苦笑いで返された


連れて帰られて、何をされれるのかと冷や冷やしていたけれど、情報にあった彼の相棒とやらに紹介されて
「ルパンお前また厄介な事持ち込みやがって」と呆れるその人をよそに
彼はいたく嬉しそうに「気に入っちゃったんだもーん」と笑った
私は会釈だけをすると、宛がわれた部屋に入った

埃っぽい部屋にややげんなりしていると、ノック音がした
返事をすれば聞いた事のない声がして、開けてみると時代にそぐわない侍が立っていた

「……よからぬ事は考えぬ事だな」

「そこまで馬鹿じゃないから安心して」

それだけ言うと、彼はぎゃいぎゃい煩いリビングへと歩いて行った

私に与えられた部屋の横には玄関
それが開くと、香しい匂い、高そうな香水の匂いがして
そちらを振り返ればこちらも見た事のある顔がいた

「峰不二子……よね?」

「ええそうよ。またルパンったら、たらしこんできたの?」

本当に飽きないわね、と豊満な体を揺らして彼女も侍と同じようにリビングへと歩いて行った
どうして彼らはこうも、私なんかを平然と受け入れるんだろう、と
部屋に戻りながら考えても、答えは出なかった


それから、いつの間にか私は彼らの一員となっていたようで
盗みに駆り出される事もあれば、何故か私のためにと盗みを働く事もあり
そんな彼らに翻弄されながらも、組織にいた頃では考えられないような日々に
私はよく、笑うようになった

行動力と俊敏さをルパンに褒められ、それを活かす作戦には表立って動く事もあった
勿論、失敗なんてしない。それだけは絶対に嫌だった
一度彼の命を狙って失敗しているのもあったけれど、それ以上に彼に失望されるのが嫌だったから
それがどうしてかなんて、よく分からなかったけれど

組織にいた頃、私には「個人」なんてものはなくて「駒」でしかなかった
女である事も必要なかったし、否定されてきた
けれどもルパンは、そんな私を褒めて慈しんでくれた

自分という人間は、もっと複雑だと思っていた
けれどもとても単純に、いとも容易く恋に落ちてしまった事を自覚した時
なんて簡単で阿呆で嫌になるくらい馬鹿なんだろうと思った

殺そうとした、人間を、好きになる、なんて
それも優しくされたから、愛を囁かれたから、そんな至極単純な理由で

でも私はそれをおくびにも出さずに、彼と接していた
だって、ルパンが愛を囁くのは私にだけじゃないから
私よりも大分魅力的な女性が傍にいて、それに靡かない訳がない
いつだってルパンと不二子のやり取りを、見てきた
そうして知るのだ、彼は私のものではないと
結局彼はいつだって「極上のお宝」に夢中なのだ
そこら辺に転がっている石ころなんて、眼中にない

でも、私だって腐っても女だ
毎日寝食を共にして、死線を一緒に潜って、そんな中でも女性として最上とは言い難いけれども
ユニークで、どこかくすぐったいお姫様扱いをされていれば
どうしても手に入れたくて、触れて欲しくて
私だけを見て、と言ってしまいそうになる
けれどもそれを拒否されるのが怖くて、最後の一歩を越える事ができないでいた



アジトのリビングで、夜も更けた頃
ひとり、酒を片手にこれからを思案していた
そうしていると、後ろの方でがちゃりと扉の開く音がした
振り返れば遠くの方で、フラフラとした足取りでこちらへと向かってくる赤いジャケットがいて
アルコールだけのせいじゃない、とくとく、と早くなる心臓

長いソファに座る私の隣にゆらりと腰かけ、太ももの横に手をつき上機嫌に笑う
酒臭い。今飲んでいる私なんかよりも遥かに

「ルパン、どれくらい飲んできたの? すごいお酒臭い」

「んふふ〜、こーんくらい」

両手をぶわっと広げて、私に抱き着く彼の所作はいつもの事で
らしくもない、じわりと滲む視界とつん、とする鼻の奥

は本当にいい女だんなぁ」

背中を優しく撫でられ、後頭部に回された手は大きくて
どうしてこんな使い古されて、手垢がべたべたついているような言葉なのに
それがこんなにも心臓を掴み離さない

本当に、ただの女たらしだったらどんなに楽だっただろう
それこそ簡単にあしらえただろうに
ああ、もし不二子が傍にいなければ。せめて、もう少しは望みがあったのだろうか

「もうぜえーったい離さないかんなー」

「……ら、……てよ」

「んー?」

ジャケットの襟を掴んで、顔を正面に持ってきて
赤らんだ頬、呆けてとろんとした目、煩い心臓が喉に詰まった言葉を押し出す

「なら、抱いてよ」

自暴自棄、まさにその言葉に尽きた

ルパンは呆けた目を二、三度ぱちぱちとさせると、俯いた
私の手首を優しく包んで、襟から離す
その隠れた口から出てくるのは、拒否の言葉なんだろう
「なんでもない」そう言おうとした刹那だった

「やあっと、素直になった」

顔を上げて、目を細めて嬉しそうに笑う彼は、一体何を言っているんだろう

「ずっと待ってたんだぜ? から来てくれるのを」

「な……だって、ルパンには、不二子が……私、は……」

「不二子は特別。でもってはもっと特別。分かる?」

「そんなの、ずる」

私の言葉を遮ったのは、ルパンの唇だった
ジタン・カポラルとウィスキーの味
驚きで開いた口内に、ルパンの舌が入ってくる
上の歯列裏をなぞられ、自然と息があがってきて
逃げようとすれば追いかけてくる舌の動き。首筋を唾液が伝うのを感じた

ゆっくりと離れていく唇同士を、銀糸が繋ぐ

「ずるいのは承知さ。それでも、特別なもんは特別なんだ」

縋るような、懇願するような、そんな目だった
あのルパン三世がこんな顔をするなんて、一体どこの世界に行けば、誰が教えてくれただろう
いつだって自信に満ちていて、飄々と、鮮やかに人の目を奪い宝を盗んできた大泥棒が
こんな、どこにでもいるちっぽけな、石ころ同然の私に
宝石のように魅力的な不二子以上だと、言ってくれるなんて

「私なんかで、いいの……?」

「違う。俺はがいいんだ」

熱を孕んだ声が聞こえて、そのまま視界がぐるりと回転すれば、天井と覆いかぶさるルパンの顔
瞼を下して、降りてくる体温を受け止めた


もともと寝間着のような物を着ていたから、私はあっという間に一糸纏わぬ姿にされた
煌々と照らされるリビングのもとで、晒されるには恥ずかしい体
思わず両手を胸の前でクロスさせれば、小さく笑うルパンが胸元に顔を近づける
そっと腕を解かれて、いくつもキスを降らされる
次第にそれは、キスではなく舌の行き来になり
やわやわと緩く揉まれる乳房は彼の手の平の中で形を変え、私の羞恥を煽る

固さを持っていく中心に、舌が触れた瞬間声が漏れる
抑えようと口元に手をやれば、それをも許さないというように片手で両手を拘束された
片方の頂を舌で、もう片方は指先で弾かれるように弄ばれる
断片的に漏れる自分の息遣いの荒さに、頬が熱い

頂を捏ねていた手は下降していき、脇腹をなぞり下腹部に触れ恥丘に辿り着く
人差し指と中指でゆっくりと秘部を開かれる
外気に触れて、ひくつくそこにルパンの長い指が一本、侵入してくる
クチュ、と思わぬ程の水音に、更に掻き立てられて
顔を背けようとすると、ルパンの顔が近づいてキスを強請る
口内を氾濫させられて、秘部を指で掻き混ぜられ、頭が快楽でパンクしそうだった

親指が、肉芽を器用に剥いて押し潰す
くぐもった嬌声が、ふたりの口内で響き合う
グリグリと、やや強めに転がされるその下からは、止めどなく水音の原因が溢れる


「……悪い、、俺もう……」


与えられている快感と幸福感で、もうおかしくなりそうなのに
耳に届くのは切羽詰まったような、愛しい男の声
何も答えられなくて、ただコクコクと頷くだけ

蜜口に、熱い雄が宛がわれる
ゆるゆると何度か軽くピストンをして、それからもう一度軽く口づけられた

「一回しか言わねえから、よく聞いておくんだぜ?」

「……うん?」

「愛してる」

それが聞こえなくなる前に、一気に貫かれて
脳天に電撃が走ったような感覚と、息さえ出来ない圧迫感に喉と背中を仰け反らせた
まるで獣みたいな目で、私を見下ろして、がつがつと奥へ奥へと進もうとする
その度に体全体が揺れて、意識さえも朦朧としてくる

「は、あん! あ、ああっ! る、ぱん!」

「っく、、あんま、締めんな……っ」

額に汗が浮かんで、それが唇に落ちる
それを無意識に舐め取ると、すぐにでも絶頂を迎えそうなのが分かった

「やっ、もう、だめ……イッちゃう……!」

「いいさ、何度でも、啼かせてやるから……」

「あ、あ、あ! るぱ、ん!」

どくん、と一際中の雄が大きくなるのと同時に、目の前が真っ白になった
それでも止まない快楽の波に、もうただされるがままで
悲鳴に近い喘ぎ声が、リビングに木魂する

「ひゃうっ……も、やあ!」

「俺も……!」

窮屈になったと思った次の瞬間、温かいものが広がる
ばたりと、私の上にかぶさってくるルパンを受け止めた






相も変わらず、ルパンは不二子のために盗みをし、手酷く裏切られアジトに戻ってくる
「本当に懲りないね、お前さんも」と呆れる次元は、自室へと向かう
ソファに座って雑誌を読む私の横に、ルパンが座る

「なあ

「ん?」

「これ、こっそりくすねてきちまった」

そう言って胸ポケットから、小さなダイヤモンドの粒で作られた花の指輪を出す
当たり前のように私の左手をとって、流れるように薬指にそれを填められた

「お、ぴったり。いつも触ってっから、に合うと思ったんだぜ」

「……本当に、もう」

いつもこうして、先を行かれる
指輪を填めた位置の意味なんて、問う方が美学に反する
肩を抱かれて、頬にされたキスを受け止めて輝く指輪を眺めた





















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