はとてもいい女だ。
極上の美女とはいかないけれど、愛嬌のある顔をしていて。
コロコロと変わる表情は見ていて飽きないし、何より笑顔がとびきりに可愛い。
老若男女誰にでも優しく、分け隔てなく平等に接している。
だけれども、盗みとなると全てが一変する。
普段はどちらかと言えば抜けている方なのに、それこそ人が変わったんじゃないかと思う程で。
柔らかな笑顔はなりを潜め、鋭い眼差しが背筋に電流を流させる。
敵対する人間には、非常に冷酷で容赦がない。
そのギャップもまた、彼女の魅力だと俺は思っていたりする。

俺にとって、彼女は特別な女で。
最高級の美女でさえ座れなかった、俺の中の特等席に彼女は鎮座している。
けれどそれを本人にはおろか、誰にも言った事はない。
もしかしたら、次元あたりは何か気づいているかもしれないが。

***

その日の計画は比較的、楽な部類に入るものだった。
けれども予想が狂い、とっつぁんが追いかけてくるのはいつもの事だとしても、マフィアやらなんやらにも追跡されて。
次元と五ェ門、俺との組み合わせで散り散りになって逃走していた。

隣を走るは、必死に隠してはいるが、どことなく辛そうな表情を浮かべている。
大丈夫か? と声をかけようとした刹那、彼女の方を向いている銃口を見つけて。
いつもの彼女ならその殺気や気配に気づくのに、やはり体調が思わしくないのか、そちらに気を取られているようで。
コンマ何秒で判断して、と銃口の間に体を滑り込ませた。


「ルパン?!」


彼女の俺を呼ぶ声と、銃声はほぼ同時だった。
右肩辺りに熱を感じる。じわじわとシャツ、ジャケットに水分が広がっていく感覚。
一瞬だけ立ち止まったけれど、すぐに俺達はまた走り出した。

ようやく追っ手を撒いて、俺とは真っ暗な路地裏にいた。
長く走った事と、彼女を庇って撃たれた傷が、思っていたより深かった事が災いして
俺はその場にずるずると座り込んでしまう。
吐き出される息が荒い。けれどもを心配させまいと、何よりこんな格好悪いところを見せたくなくて
いつものようにへらりと笑いながら、彼女を見上げた。
するとどだろう、心配そうな顔をしているかと思えば、なんとその表情は怒りに満ち溢れていた。


「いんやー、俺も体力ねぇわなあー。煙草控えっかな!」


軽口をたたいてみる。それでも彼女の表情は変わらない。
いよいよどうしたものかと思い始めた時、頬に一滴の雫が落ちてきた。


「雨?」


それは雨ではなく、の瞳から零れ落ちた涙だった。
驚きと、戸惑いと、摩訶不思議な気持ちがぐちゃぐちゃと混ざり始める。
どのくらいの時間を彼女と過ごしてきたか、もう覚えていないけれど、記憶をどんなに手繰り寄せても
彼女の泣き顔を見るのは、これが初めてだ。

怒った顔のまま涙を零しているは、俺の傍らに座ると背負っていた鞄から救急キットを出した。
それから俺のジャケットとシャツを剥ぐ。
「いやん、ちゃんのエッチ」と言ってみたが、やはり何の反応もない。
彼女は黙々と応急処置を始めた。

静かな路地裏に届くのは遠くを走る車の音だけで。
どこに視線をやっていいか分からず、結局の俯いている顔を見ていた。
不意に、彼女の唇が動く。


「……なんで、庇ったりなんかしたの」

「へ?」

「不注意は私の責任なのに……女だから? そんなに頼りない?」


怒りと悲しみに染まった顔を上げて、俺の目を見る。
俺はただ、大事な女が傷つくところを見たくなかっただけで。


「私、言ったよね? 対等に扱ってって。足手まといになったら切り捨ててって」


その言葉の裏にはきっと、彼女のプライドだとか、俺への心配だとか、色んなものが浮かんでいるんだろう。


「……ごめんな」


いまだに涙が流れ続ける頬に、そっと指を這わせた。
目元を親指で拭ってやると、瞬きをする。
その度に、涙がぱたぱたと落ちていく。


「ごめん」

「ルパンの、馬鹿」

「本当に、ごめん」


でもきっと、俺はまた彼女を守ってしまうんだろう。





あと何回言えばは赦してくれるかな





Title by Lump 「ごめんね」の5つの理由