数日前から彼女は、とてもこの日を楽しみにしていた。
どこからか買ってきたのか笹なんか持ち込んで、おりがみで色んな飾りや短冊を作って。
俺達にも願い事を書かせて、それを飾った。
一番大きな窓際にそれを置いて、毎日空を眺めていた。

そして、来る七月七日、七夕だ。
お天気は生憎の曇り空。


「……織姫と彦星は会えたのかなぁ……」


笹の下で、窓から真っ暗な空を見上げて、明らかにしょんぼりした声で呟く。
時折吹く柔らかい風が、笹にぶら下がっている短冊たちを揺らす。

俺の名高きブレーンは、いつになくしょげている。

もともと何かと季節の行事が好きなは、よくこうやって季節を楽しんでいる。
それは俺達を巻き込む事もしばしばあって。
巻き込まれる事を楽しんでいる俺達がいるのも、事実だったり。

去年の七夕も、こうやって楽しもうとしていた。
ただし今年と違うのは、去年は晴れていたという事。
天の川も見事なもんだったし、も笑っていた。


「しょげてんな、ちゃん」

「ルパン……だって、せっかくの七夕なのに」

「来年も七夕は来るぜ?」


そう言うと、一瞬だけ笑う。
けれど短冊を見て、それから俯くと顔は見えなくなった。


「今年の七夕は、今日だけだよ」


ひらひらと、オレンジ色の短冊が目に入る。
それにはの字で「皆と来年も一緒にいられますように」と書いてあった。
なんともいじらしいお願い事だ。


「織姫と彦星が幸せじゃないと、願い事叶えてくれなさそうじゃん」


膝を抱えて小さくなる

刹那を光のように生きる俺達だから、こうして傍にいられる事が奇跡みたいなもので
それが明日、明後日、その先も続くかなんて保障できない。
俺はその中に生き甲斐を見出しているけれど、彼女はどうやらそれが不安らしい。
それを、こんな些細な事で払拭しようとしている。

なんとも、可愛らしい事だ。
胸の中に温かいむずむずしたものが、湧き上がってくる。


、両手出してみな」

「……こう?」


差し出された小さな両手。
その上に、色とりどりの星をパラパラと落とす。
突然の事に目を丸くする


「金平糖?」

「天の川の代わりと言っちゃあ少ないけどな」


の手の中から、ピンク色のそれを取って彼女の口に放り込む。
カリカリと咀嚼する音だけが、部屋に響く。
俺も水色の物を口に入れて、淡い甘さを堪能した。


「わざわざ用意してくれてたの?」

「もっちろん。可愛いちゃんのためですもの」

「ふふ、ありがとう」


やっと笑った、俺の織姫様。

一年に一度なんて、我慢できない。
いつだって俺の腕の中には、君がいて欲しい。
織姫と彦星には悪いが、俺達は幸せになる。
明日も、明後日も、その先も。










憂鬱なベガとアルタイル










Title By Fortune Fate「ひと夏の五題」