甘いその声は、どことなく寂しさを滲ませている
いつだってそうだ。だから余計に手放したくなくなる
自由にさせてあげたいのに、それをしてやれない自分に嘲笑さえ零れてしまう


また、今度会いに行くよ


そうやって電話をすれば、必ず出迎えてくれる女
うぶで、まっすぐで眩しいくらい純粋な女

最初はその白を染めてしまいたい欲望、ただそれだけだった

女なんて、とどのつまり同じようなもんだと思っていた俺にとって、彼女は特別だった
アイツとは完璧に間逆の女。何も知らない、俺がすべてにおいて初めてだったようで
誰の手垢もついていない綺麗な彼女を、喜んで貪った


最初の頃はすぐに飽きるだろうと思っていた
彼女みたいな女は何人も見てきたし、抱いてきた
中には面白い女もいたけれど、大抵時間が経てば俺に縋り付いてくるようになって
そんな女に成り下がった奴らには興味は失せる。当たり前のように泣きっ面の女たちを、足蹴にしてきた


「我ながら酷い男だよなぁ」


寒空の下、吐き出した紫煙がまるで雪みたいだ

赤いジャケット一枚には厳しい寒さ。風が吹けば一層身が縮まる
胸ポケットにある小さな箱が、身を縮めた時にこつりと当たった


これを見せたら、どんな顔するんだろうな
笑うだろうか、それとも涙を浮かべるんだろうか
もしかしたら拒絶されるかもな


「どう転んでも後悔だけはしねえようにしないとな」


誰に言うでもなく、呟いた言葉はコンクリートの地面に吸い込まれていった






見上げた小窓は、淡いオレンジ色の光を漏らしていた
部屋の住人がいる事を伝えている

かんかん、と高い音を鳴らして階段を登る
小窓の中に小さな影が揺れて、それから施錠の外れる音が聞こえた
見慣れた扉から、ひょこりと顔を覗かせる彼女


「久しぶり、ルパン」

「元気にしてたかぁ? ちゃん」


こくりと頷いて、寒かったでしょ? と白い手が俺を中へと誘う
温かい手の平に馬鹿みたいだけど泣きたくなった
俺らしくもない、そんな事を思ったりして


用意されていた食事を平らげて、他愛もない話に花なんか咲かせちゃったりして
俺の好きな屈託ない笑顔で「ルパン」と名前を呼んでくれる
柄にもない「愛おしい」なんて感情を思い知った


「それで、今回は日本のなにを盗みに来たの?」

「へ?」

「もしかして、今度上野で展示する絵画? あれ、ルパン好きそうだよね」

「あ、いや違うんだ」

「え?」


首を傾げて「そうなの?」と言うに、言葉が止まる

俺がいつも彼女のところに来る時は、日本で盗みをする時だけだった
そういう風に彼女に言っていたし、だからこそ今もそう俺に聞いたのだろう
けれど、今回は違う。に会うためだけに、ここへ来たんだ

椅子から立ち上がって、向かいに座っていた彼女の横に跪いた
何事かと目を丸くするその顔にすら、笑みが浮ぶ


「今日はな、これをに渡しに来たんだよ」


胸ポケットから小さな箱を出して、手の平に乗せた
は「開けていいの?」と俺を見る。頷いて、開けるよう促す

リボンを解いて、箱を開ける。中には白い布製の箱
その形を見て思うところがあるんだろう、俺の顔を見るその表情は驚愕している
心臓がばくばくと音を奏でる。こんなに緊張なんてしたのは、いつぶりだろうか


震える指でその箱を開けて、中にある物を見てついに涙を零した


「……どうして、私なんかに……」

「受け取ってくんねえかな。受け取ってくれたら俺っち、すんごい嬉しいんだけんどもよ」


の指には大きなダイヤをあしらった指輪
それと同じ物が、俺の首にぶら下がっている



「俺は天下の大泥棒のルパン三世だぜ? 欲しい物は必ず手に入れる主義なんだ」



頬に流れる涙を、指で拭う
真っ赤な目で俺を見つめるに、困ったような笑顔を向けた


「……なのにな、俺が手に入れられちゃったみたいなんだな、これが」


誰のものにもなりたくなかった。誰からの束縛も受けたくなかった
なのに、自ら縛り付けるような物を送るとは、思いもしなかったんだ



「俺は世界中のかわい子ちゃんは大好きなのよ。でもな、は特別なんだ」



当たり前のように俺を待ってくれるから、俺もいつの間にかここが帰る場所だと思えるようになった




「世界中で誰よりも愛してるぜ、



細い指にプレゼントしたそれを填めて、そっと口づけた











この関係に名前を付けるとするならば










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