ルパンがテーブルの上に、様々な大きさ、形の宝石を並べる。
ダイアモンド、ルビー、エメラルド、サファイア、ラピスラズリ。挙げればきりがない程の量だ。
その一つ一つを手に取り、丁寧に説明する。
それを、宝石の輝きに負けない程、瞳をキラキラとさせて聞く


は宝石を見て、どう感じた?」

「光を浴びて、輝くところを、ずっと見ていたいって思った」

「そうか。きっとそれが、綺麗だって感じている証拠だんな」


彼女がルパン達と過ごすようになって、数日が経つ。
が言ったように、彼女にはやはりあまり感情というものが見受けられなくて。
安全だけれども、無機質な鳥籠の中で生活していたせいか、危険に対しても無頓着で。
知識の中でしか培われなかった危機管理能力は、生活の至るところで顔を出す。
好奇心だけは旺盛なのか、自分が気になったものには必ず手を出さないと、気が済まない。
ただし、それがどれだけ自分にとって危険なのか、頭では分かっているが、実際に体験しないと止められないのだ。
そのせいで、彼女の手や顔はすでに傷だらけで。


「痛いのって、結構嫌なものだね」

「ようやく学んでくれて、俺は嬉しいぜ……」


今日も今日とて、パスタを茹でるために沸かしていたお湯の中に、手を入れようとして指先を火傷していた。
慌てて止めたルパンが鍋の湯をかぶる事になったが、そのおかげで彼女は指先だけの火傷で済んだのだ。

手当てをする次元の手元を、はじっと眺めている。


「どうかしたか?」

「大介の手って、綺麗」

「はあ? こんなむさくるしい男の手の、どこが綺麗なんだ?」

「だって、料理を作ったりこうして手当てをしている様子を、私はずっと見ていたいって思うから」


まだ感情というものを、きちんと理解していないから、こういう事を言うのだろう、と次元は考える。
だけれども、自分の手をじっと見つめ続けて、それから今度は己を見るを見ていると、なんだか調子が狂う、と彼は思った。


「なあ、今日の夕飯、一緒に作るか?」

「いいの?」

「ああ。ただし、俺の言う事はちゃんと聞けよ」

「うん」


包帯を巻き終えて、なら買い物も一緒に行くか、と提案すれば、また頷く。
まるで、親鳥の気分だな、と苦笑しながら立ち上がった。
いつもは一人の買い出しも、たまには麗しい女性となら悪くない、と煙草をふかしながら思う次元だった。

だが、次元の思い付きとは裏腹に、その日の買い出しはなんとルパンと五ェ門もついてきたのだ。
普段なら荷物持ちに付き合え、と言ってもついて来ない二人が、も一緒に行くと言った途端にこの様だった。


「なんでお前らまでついてくんだよ……」

殿に何かあっては困るだろう」

「次元だけとデートなんて、ずっりーからな」


そう言って互いに互いを睨み合う三人に対し、マクルの私邸から連れ去られて以来、初めて外に出るの表情は、相変わらず無表情だったが
心なしかどこかワクワクしているようにも見えた。


「大介、今日は何を作るの?」

が食べたいもんで構わねぇぜ」

「なら、和食が食べてみたい。マクルの所じゃ、ずっと洋食だったから」


そう言って、スタスタと歩き出してしまう。
向かった先は魚屋で、店主と何か話している。
それから、呆然としている三人を手招きする。喜び勇んでルパンがひょこひょことそちらに行く。
やれやれ、と首を振って次元と五ェ門が歩き出すと、そんな二人の耳にルパンの雄たけびが届いた。
どうしたのか、と次元が慌てて魚屋に行けば、店主の陰に隠れているルパンと
生きた大きなタコを持ったがいた。


「どうしたの? ルパン」

「そそそそいつをどうにかしてくれぇっ!」

「そいつ?」

、ルパンはな、タコが苦手なんだよ」

「そうなの?」


は変わらず店主の陰に隠れているルパンと、自分の手の中にいるタコを見比べる。
それから生簀にタコを戻すと、手を洗いタオルで拭いてから、ルパンに声をかけた。


「ルパン、ごめん。私、知らなくて」

「いや、いいんだ……」

「……ふふ」


その時、小さくが笑い出した。
それは彼女にとっては大した事ではなかったのかもしれない、何せ自然と湧きあがったものだったから。
でも、他の三人にとっては違った。


、お前さん、今、笑ったのか……?」

「え?」

が笑った!」


店主の陰に隠れていたルパンが、シュっと出てきてを抱え上げる。
突然の事に表情を崩して驚くに、ルパンはさらに瞳を輝かせた。


「今度は驚いてるぜ! かーわい!」

「やっ……ちょっと、ルパン!」


くるくると回るルパンに合わせて、最初こそは驚いた表情のだったが
次第に、その顔が笑顔になっていく。
そんなふたりを見て、次元と五ェ門も笑い出す。
なんだかよく分かっていない魚屋の店主も、なぜか笑い出す始末で。

結局買い物が終わったのは、それから二時間後だった。





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