もどかしいんだ、ここが。すごく。いつだって
何をしてても、誰といても、見ているものも聞いているものも全て素通り
結局体内にも心の中にも残るのは、君だけで
どうすればいいかな? 答えなんて見つからない
見つけ方すら分からない。助けてよ


「五ェ門、五ェ門、五ェ門、五」

「何用。そこまで呼ばなくとも聞こえておる」


ただ呼びたいだけ。そう言ったらまたしかめっ面をされた
だって好きな人の名前はいつだって、呼んでいたい、口にしていたい
そう思うのはおかしい事なのかな

君はさっきから修行に専念しているから、構ってくれない
というか、修行中の五ェ門に構ってもらえたら、それこそ地球が逆回転するかもしれない
それくらい、五ェ門の修行中の集中力は高いから
真っ直ぐに前を見て、剣を振る。風を斬る音がして、汗がキラキラしてる
これが他の人だったら「うわ、汚ね」とかで終わっちゃうんだけど
それは五ェ門だから。五ェ門だから輝いて見える


「修行終わったらデートしよ。デート」

「っ何を!」

「デート。デート。もう決まりね、約束」

「今日はこのままずっと修行のみ。この後の予定は」

「じゃあ明日に食い込んでいいからさ。夜にしかできないデートもあるでしょ?」


うふふー、と笑えば顔を真っ赤にして睨んでくる
やだ、その顔すごい可愛い、襲いたい
普通は逆だろ、とか思われてもしょうがない。でも、私なんかより五ェ門の方が百倍くらい色気があるから

乱れた髪、肌蹴る着物、頬を垂れる汗

据え膳喰わぬは恥、ってこういう事かなぁ、とか思いながら
私はもう一度、平静を装ってかなり動揺しながら修行を再開した五ェ門を見る

どうして。自分でも
こんなにこの人のことが好きなんだろう、と思う時がある
男だったら次元もルパンも、他にもたくさん世界にはいるのに、どうして私は、こんな仏頂面の
古きよき侍なんかを好きになったんだろう、と

不二子ちゃんなんて「あんなつまんなさそうな男のどこがいいワケ?」と聞いてくる
ちょ、それはお前、失礼だろ! とか思ったけど世論的に言えば、不二子ちゃんの意見の方が
絶対支持率が高いだろうな、と考えたから何も言わなかった

なんていうか
存在自体がいとおしい、って言うのかな

見てるだけで苦しい、幸せ、傍にいたい、傍にいて欲しい
声が聞きたい、姿が見たい、触れて欲しい、触れたい
名前を呼んで、呼ばれて、笑いたい
胸の奥がウェルダンにジリジリ焼かれていく感覚
全てを飲み込まれそうな気持ち
でも、幸福を感じる

それが、私の好きなんだと、思う

その全てをピッタリ、キッチリ、綺麗に満たしたのが五ェ門で

修行している姿も、何かを斬っている姿も、何をしていてもその姿を見てるだけで苦しい
でも、幸せで。ピッタリ隣にいたくなるし、隣にいて! って言ってしまう
声が聞こえると眠くなる、どこにいるか分からないと不安になる、優しく撫でられると溶けて消えちゃうくらいに
、て私の名前を甘く呼んでくれる。私も、五ェ門、てたくさん呼ぶ

嫉妬でぐちゃぐちゃになる。不安で消えたくなる
でも、幸せ

ほら、それが、私の好き


「五ェ門」

「なんだ」

「愛してる」

「なっ!!」

「大好き。好き。愛してる。結婚して……」

「そう言う言葉はここぞ、という時に使うものだ!」

「だって、今言わないと苦しくなっちゃうから。でも、なんかみんな違う気がする」


既存の言葉なんかで補えるほど、この気持ちは小さくない
もっともっともっと、人生を揺るがすくらいの言葉
きっとこの世に存在しないであろう、そんな言葉じゃないと、この気持ちは表現できない
ぎゅ、と胸を掴まれる感覚。苦しい、涙が出そうだよ


「五ェ門、五ェ門」

「だから」

「今日は修行終わり。だからこっち来て」

「何を勝手に……」

「いいから!」


強く言って手招きをすれば、五ェ門は渋々、というかかなり嫌そうに斬鉄剣を閉まって私の所に来る
風邪をひくといけないから、タオルを渡して。実はここは民間の公園
私が座るベンチの横を少し開けて、強制的に座らせる


「ちょっと失礼」

「な」


こっちに向かせて、両頬掴んで逃げないようにした
唇目掛けて空からダイブ
くっつけば砂糖菓子が広がる夢の中。ああ、私が求めていたのこの感覚だ
一度離して薄く目を開ければ驚きの表情で固まる五ェ門
それをいい事に私はもう一度、そこに口づけた

両腕を伸ばして、首に巻きつけて
私が上で五ェ門が下
ベンチに普通に座る五ェ門と、ベンチに膝立ちの私
必然的にそういう体勢になる

唇から体温
だんだん慣れてきたのか、五ェ門が動き出す
突き放されるかと思ったら反応があって、驚いた
けど、なおさらそのせいで止まる理由がなくなって
漏れる息に切なさが募る。息苦しさは甘美な毒のようだ


一体どれくらいそうしてたのか分かんないけど
唇をそっと離した時にはお互い、かなり息が上がってて


「しちゃったね、ちゅう」

「それはっ、お主が……!」

「武士のくせに、人のせいにするの?」

「うっ……」

「嘘ウソ。ごめんね」


そっぽを向いて不貞腐れてる
私はそんな五ェ門の頬にもう一度キスをした


「仕返しでござる」

「え?」


言われて、抱きかかえられながら私は、初めて五ェ門からのキスを貰う
それは、自分からするのより何倍も甘くて、切なくて、苦しくて
幸せなキス