「こんな場所に、本当にお目当ての物があるの?」
「ルパンの見立てではそうらしい」
「珍しいね」
とある国の、とある街の、とある学校に、私と五ェ門は潜入していた。
潜入、と言っても、夫婦という立場を使って、子どもの入学先の下調べという名目でここに来ている。
この学校には裏の顔があって、ある場所に宝物庫があると言う。
そこにある絵画が、今回のターゲットだ。
今回は特にヒントらしいものもなく、しらみ潰しに探すしかなく
二人でそれらしい動きをしながら、宝物庫を探していた。
一階から順に探していき、今は最上学年の教室があるフロアにいる。
私立だけあって、設備は整っているし、申し分ないくらい綺麗だ。
「裏の顔があるって事を除けば、正太郎が通う学校に考えてもよかったかもね」
「うむ。しかし拙者は、日本で暮らしているのだから日本の学校に行かせたいと思っている」
正太郎の話になると、やっぱり父親の顔になるなぁ、なんて感慨深くなった。
それが嬉しくて、私も同じような顔をしているのかな、なんて思ったりもした。
最後のクラスになって、教室に足を踏み入れる。
時刻は夕方、窓からオレンジ色の光が射しこんでいる。
「そっか、なんか懐かしさを感じないなぁと思ったら、私、学校通った事ないんだった」
「そう言えばそうだな。……辛いか?」
「ううん、学校に来るよりも幸せで楽しい日々だったから、全然」
五ェ門に助けてもらって、ルパン達といるようになって、私の日々はそこから始まっている。
普通の暮らしじゃなかったけれど、普通の暮らしで得られるものよりも、遥かにたくさんの経験を得られたから。
何より、彼らに出逢えた事が宝物だから。
「もし……私が普通の子で、普通に暮らして学校に通ってたら、こうしていられないでしょ?」
「そうだな」
「でもちょっと興味あったかも。学校で勉強して、友達作って、恋したりして」
そんな、ありえない普通の生活。
不意にオレンジが陰って、それから間近に五ェ門の体温を感じた。
「五ェ門?」
「……にとっては、そちらの方がよかったのかもしれぬな」
「え?」
「ご両親がいて、普通のおなごとして生きていた方が、ずっとよかっただろう」
五ェ門が今、どんな顔をしているか分からなかったけれど、声で伝わってきた。
申し訳なさや、後悔の念。
「ねえ、五ェ門」
「うむ……」
「辛い事だけど、時は巻き戻せないし、過去は変えられない。それに、興味はあるけど、後悔はしてないよ」
「しかし……」
「むしろ、普通だったら、こうして五ェ門に出逢えてなかったかもしれない」
そっと、彼の背中に手を這わす。
「五ェ門に、それからルパン達、何より、五ェ門が会わせてくれたんだよ、正太郎に」
「……」
「だから、私、今すごく幸せだよ」
涙が零れそうになったけれど、それよりも嬉しくて笑顔になれた。
五ェ門の顔を見れば、そんな私を見てホッとしたような表情だった。
そっと、顔を近づけてくる五ェ門に、瞼を下ろそうとした時、携帯電話が鳴った。
表示を見れば、ルパンと出ている。
残念そうな五ェ門に苦笑しつつ、電話に出る。
「もしもし?」
「ままー、ぱぱー」
「正太郎? どうしたの?」
「るぱんがはやくかえってきてだって」
後ろの方でルパンと大介の笑い声が聞こえる。
「正太郎、お前が帰ってきて欲しいんだろ?」と。
そんな声に正太郎が「ちがうもん!」と言う。
私達は顔を見合わせて、くすくすと小さく笑った。
「まま、るぱんがさみしいっていってるんだよ、ほんとだよ?」
「うん、じゃあそろそろ帰るから。今日の夕飯は何がいい?」
「おむらいす!」
「分かった。じゃあルパンに代わってくれる?」
「――お、か? 収穫はあったかい?」
「微妙かな。これじゃあまた出直し決定だね」
「わりぃな。王子様はやっぱお姫様じゃなきゃ嫌みたいだ」
「ふふ。夕飯の買い物してから帰るね」
気ーつけてな! とルパンの声を聞いてから、電話を切った。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだな」
まるで、それが放課後の約束みたいだと思ったのは、私だけの秘密だ。
茜色に染まる教室で
Title by 瑠璃 「春夏秋冬の恋20題 秋の恋」