こんなの、ただの醜い嫉妬だ

彼自身そんな事は重々承知していたけれども
やはり、気持ちや感情的な物ばかりは、いくら修行を積んだ五ェ門でも、うまく操る事はできなかったようで


「拙者は部屋に戻らせてもらう!」


呆然と彼を見上げるや、相変わらずニヤニヤしているルパンを放っておいて
五ェ門はそう言い放つと踵を返した

事の発端は、おおよそ一時間前
いつものように、アジトのリビングで各々が過ごしていた時
はその時、新しい機械の発明に没頭していた

けれども、どうやら何らかの不具合が生じたようで
行き詰ったは、もう一人の発明家であるルパンに協力を頼んだ
そこまでは、通常の風景と何ら変わりは無かった
違ったのはその後で

ソファに横になっていたルパンに近づき、大きな図面を広げる
ルパンにしては珍しく、その図面を真面目な顔で眺めていた
五ェ門には分からないような単語を並べ、話を進める二人
そんな彼女達を見て、ふと五ェ門は自分の中で首をもたげていた感情に気がつく

普段、あの場所にいるのは自分なのに

ハッとして、思わず首を振るがそのシーンを運悪くルパンに見られていた
五ェ門とルパンの視線が、がっちりと合う

すると、ルパンは意味ありげな笑みを浮かべると
ソファに沈めていた右手を、そっとの肩に持っていく

五ェ門はガタリと大きく立ち上がり、ほぼ跳ぶようにして二人の前に立つ
そして斬鉄剣で、ルパンの右手を制した

そこまでは、まだよかった


『五ェ門……』


はそう言って彼を見上げるが、その表情が訝しげだった
なぜなのか? それは簡単な理由
五ェ門がビシッと突き出した斬鉄剣は、が丹精籠めて書き上げた図面を
見事に突き破っていたから


『どうしたの?』


口が裂けても、嫉妬したから。なんて言えなくて


『拙者は部屋に戻らせてもらう!』


その代わりに出た言葉が、それだった


自室に戻り、畳の上で悶々とする五ェ門
どう考えたって、どう思考を巡らせたってに一切非はない
だけど、一度着火された嫉妬の炎はそう簡単には消えてくれなくて

謝りたいけれども、きっと言葉は素直に出てきてくれない
それ以上に、余計な事を言ってしまうのでは

そんな事を考えていた五ェ門の耳に届いた声


「五ェ門? 入るよ?」


彼が了承を出す前に、部屋に入ってきた
驚きで口の開閉を繰り返す五ェ門の横に、彼女は当たり前のように座った

そこには、先程までの訝しげな表情はなく
どちらかと言えば、沈んだ面持ちで


「……私、何かした?」


そっと、頭を彼の腕にあずけは問う
五ェ門は思わず「そんな事……!」と言うが
その後の言葉が続かず、また押し黙ってしまう


「……嫌いに、ならないで」


消え入りそうな声で、は確かにそう言った


「何かしたなら、ちゃんと謝るから……」


五ェ門は思わずを見て「そんな事、絶対にある訳がない!」と声を大にして言う
その声量に些か驚きつつもは、ようやく安心したように微笑んだ


「そっか。じゃあ、安心した」


ニコニコしながらは、するりと五ェ門の腕に絡みつく
そこからまた別の葛藤が、五ェ門の中で繰り返されたとか





















Title by:207β