一番最初に思い出すのは、暗い路地裏と冷たい雨の雫の感触
次の思い出は、誰かの温かい腕の中で
それが、私が覚えている一番最初の記憶

両親の顔なんて、覚えてない。声も、どんな人だったかも
私に両親がいるかも怪しいんだ。だって、こんなにも覚えていないなんて
もしかしたら、すぐに死別して両親じゃない人に捨てられたかもしれないから

幸いな事に私は、孤独を思い知らされる前に
優しい腕に救われた。私自身、救ってくれたのが五ェ門だという事は
後から知ったのだけど。それでも、心の奥底で本当は、覚えていたのかもしれない
ただの、自惚れなのかもしれないけれど

孤独を知る前に。そう思ったけれど、本当は
少しだけ脳裏に残っている傷が時々、夢という形で私を襲う

夢の中は暗くて寒くて、誰もいなくて。夢の中の私は泣き叫んでるだけ
孤独は嫌だと。一人にしないでと

そんな瞬間、感じるのはやっぱり、温かい五ェ門の手で

目を開ければ心配そうに覗き込む彼がいる
それだけで、そんな傷吹き飛んでいくから

抱き締められて「拙者はここにいる」って囁いてくれる
孤独だった頃の傷痕も、不思議な事にそうしてくれるだけで、埋まっていくから
だから、ただ今だけはこうして抱き締めていて











彼女の記憶は、スラム街の路地裏から始まる
それ以前の記憶はなく、それ以降の記憶は拙者達との記憶で
そう話す彼女はいつだって、どこか寂しげな笑顔をたたえている

両親がどういった輩か。はたまた両親以外の者に捨てられたのか
その真意は量りかねないが、ただ確かな事は
彼女自身が捨てられ今でも傷ついている事のみ

不幸中の幸いなのが、彼女自身、孤独の記憶が少ない事で
早くに救ってよかった。最初こそは彼女の重荷にならないようにと
自身が救った事は伏せておいたけれども。どこか悟った様な
そんな雰囲気は感じ取れていた

けれど、本当は
彼女の脳裏にはしっかりと、孤独の爪痕が残っている

時々、夜中にうなされる。夢の中にあの路地裏が現れ
孤独は嫌だと。一人にしないでくれと、そう泣き叫ぶ

そんな時、自身は彼女の手を握るくらいの事しかできずにいる

だからこそ、余計に心配は募り思わず彼女の顔を覗き込む
すると、目を開けた彼女は心底安心した表情で少しだけ、笑って

堪らず抱き締め「拙者はここにいる」と囁く
せめて、彼女の苦しみがこうして自身に少しでも移ればと
まだまだ未熟な拙者には、こうする事しか出来ないのだから






















Title by リライト『君で変わっていく10のお題』