パアン、と一発の銃声が辺りに響いた
どさりと男が倒れると、その向こう側には次元大介が立っている
銃口から流れる硝煙を吹いて、それを腰に収めた
周りには何人もの男たちが倒れていた

がちゃり、と安全装置の外れる音がして
咄嗟に振り返り銃に手を掛けた刹那
新たに一発の銃声が響く


「最後まで気を抜いちゃあダメじゃない?」


闇夜に似つかわしくない明るい、はしゃいでいるようにも聞こえるその声の持ち主に彼は覚えがあった

か……」

「命の恩人にその態度は失礼だと思うけど、っと!」

ビル裏の路地、大きなゴミ箱の上から音もなく飛び降りる彼女を見ていた
優雅に死体の隙間を縫うように歩んでくるその姿は、さながら蝶のようだと
次元は逆光の中そんな事を思った

は彼の前まで来ると、嬉しそうに次元を見上げた
そしてニッコリ笑うとその首に腕を回す

「今夜、予定ないんでしょ? だったら私のところに来てよ!」

「……そうさせてもらうかな」

「やった」

軽いリップ音をたてて、背伸びをして頬にキスをする
そして次元のささくれ立った手を引いて、は自分が宿泊しているホテルを目指した



濃厚なキスを何度か重ねて、互いに互いの服を剥ぐように脱がしていく
次元はの胸元にいくつも所有印をつけて、は次元の背中に爪痕を残す
ベッドに倒れ込むようにして、何度目か分からないキスを交わした

「……っは、だい、すけ……」

切なそうに自分を呼ぶ声に応えるよう、首筋に舌を這わせる
指を出し入れして掻き回すそこは、ひくついて水音をたてている
入れていた指を引き抜いて自身を蜜口に宛がい、そっと彼女の表情を窺った

「な、に……?」

「いや……なんでもねえ」

間髪入れずに挿入する

白い首筋が弓なりに反って、振動が質素な窓ガラスを揺らす
纏わりつく肉壁の中を抉って、腰をスライドさせピストン運動をすれば
生理的にであろう流れる涙。それを舌で絡めとれば、さらにひくつくそこ
久しぶりの感覚と、もともとの相性もあってか、次元の限界は近い
それはも同じで、腕を伸ばし彼の首に絡める

キスを強請る仕草は、変わらねえんだな

何度呑み込んだであろう言葉を、また喉奥に追いやった
その仕草に応じてキスをする。口内を舌が行き来する
射精感を我慢せずに、中に撒き散らした




下着だけを身に着けて、窓の外を眺めるの背を次元は黙ったまま眺めていた
いつから、彼女は行為の後に身を寄せなくなったのだろうか
それすら思い出せないのは、時間のせいか自分のせいか

「見て見て、星がすごい綺麗なの」

窓の外、上の方を指さし笑うは振り返らないで言う
彼はベッドを這うようにして、そこから窓の外を見る
の言う通り、空には幾千もの星が輝いていた

「空なんて見上げねえからな、分からなかったぜ」

「私のお蔭ね、ふふ」

隣で寝そべる次元に、笑いかける
行為の後に顔を見たのは、これが今日最初だ

次元は、の脇腹にある真新しい傷を見つける
痛々しい赤、引いたように一直線の傷
それが彼女の仕事でついた物だと、すぐに分かった
撫でるように触れるけれど、はなんの反応もしない


「明日もまた仕事。明後日も、その次の日も」


次元を見ないでは言う。その言葉に彼は何も言わない


「ルパンと今度はなんの悪巧みしてるの?」


お前がいた時と変わらないさ、と言えればどんなに楽な事だろう
次元はそんな事を考えながら「さあな、まだルパンがお目当ての物を探してる最中だ」と答えた




がルパンたちのもといたのは、いつの事だっただろうか
彼らのサポートをこなし、時には彼女自身が盗みの情報を持って来たり
そうしているうちに、彼女と次元の距離が近くなっていったのは不自然な事ではなかった

生きる事を全うしているかのように、太陽の下ではしゃぎ笑う
それを見つめる次元の視線は優しかった
それが彼らの距離感でもあった
体を何度も重ねて、触れ合う唇の温度が同じなのではと錯覚してしまう程に
次元にとってはなくてはならない存在になって、の中でもそうだった
それが食い違ったのが、彼と彼女の距離を離す原因になってしまう

お互い死線に身を置いている立場。明日の命も分かったもんじゃない
そんな事、承知しているものだと、彼は思っていた
けれども彼女は、それに耐えきれなくなっていく


『もう、待ってるのは辛い』


お宝を抱えて帰って来た次元を、は初めて見せる泣き顔で出迎えた
一言、そう言って彼らの前から姿を消した

傍にいる限り、次元はを守ろうとする
そのために彼女だけを置いて、盗みに出る事もあった
けれどそれは彼女が望んでいた事はなくて
それが産ませたスレ違いに、次元は気づくのが遅過ぎた

そうしてひとりの女怪盗が、生まれたのだ





「大介?」


我に返れば、を組み敷いて見下ろしていた
見開かれた黒曜石はまっすぐと彼を見つめている

こんなに近いのに、遠いのか

「どうしたの?」

「悪い」

「変な大介」

笑ってベッドに潜り込むは、彼の手も引いていた
ふたりでシーツの海に溺れていく
彼の上に乗り、その胸板に指を這わせている
その表情も、仕草も何も変わらないのに、傍にはいてくれない女


ルパンたちのもとが去ってからどれくらい経ったのか分からないが
ある日突然夜の闇に紛れて、は次元の前に現れた


『久しぶり! ねえ今夜空いてる?』


そう言って銃を掲げ笑った顔は、彼らと共にいた時となんら変わっていなかった

猫のように気紛れになって帰ってきたは、変わらず太陽の下で笑っていた
ただ実際の太陽ではなく、紛い物の太陽なのが次元の胸を締め付けた

そうさせてしまったのが自分だと気がついた時、次元は「帰ってこい」の一言が言えなくなってしまった
これは、彼女なりの必死の防御の仕方なのだと分かってしまったから

眠ってしまった彼女の瞼にそっとキスを落として、次元も眠りに就いた






雨がしとどと降る夜の日だった
寝付けなくてアジトを出て、傘も差さずにぶらついていた
どれくらい歩いたのか分からなくなった時、次元の耳に銃声が届く
聞き覚えのあるそれを目指し、次元は走り出した


錆びれたアパートメントの裏で、その後ろ姿はあった
小さく震えて、肩で息をしている
足元には大柄な男が横たわっている


「……そろそろ、限界なんだろ」

「そんな事」


ない、とは続かなかった
その代りは振り返りもせず、足元の男を眺めていた


「……辛い、よ」


絞り出すように呟かれた言葉を、次元は聞き逃さなかった
ゆっくりと背中に近づき、そのまま腕の中に閉じ込める


「もう離さねえぞ」

「……どうしようね」

、お前さんも、もう分かってるだろ」


彼女は首を縦にも横にも振らない
雨だけがふたりを濡らしていく


「俺の傍にいろ」


の肩が揺れた。濡れそぼってしまった次元の手に、の髪から落ちた雫が跳ねた


「あーあ、捕まっちゃった」


くるりと振り返り、は笑った
そして次元に抱き着くと、耳元で「ただいま」と囁く
「ようやく帰って来たな」と次元も返し、その体を強く抱き締めた

「体、冷えちゃったね」

「そうだな……」

「私の泊まってるホテルとアジト、どっちがいい?」

「近い方で」

「了解!」

そう言って唇に軽いキスをする
どちらからとは言わず、何度も交わす
雨は変わらず降り注いでいたけれど、繋がれた手は強く握られていた






















Image Song 「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」 By B'z