時は真夜中、場所は様々な人が集まる怪しげなバー
場の一角を陣取るのは、かの有名なルパン一味
左から、、不二子、ルパン、五ェ門と並んでいる
次元だけは一人、カウンターで手酌をしながら晩酌を楽しんでいた


「いい所に連れて来てくれる、って言うから着いて来たのに……」

「あらぁ、はバーがお嫌い?」

「色んな美味い酒が飲めて、音楽も聞けて、可愛い子ちゃんがたくさん眺められるんだ、最高だろぉ?」

「美味い酒が飲め、音楽が聞けるのは認めるが、後半はお主だけではござらぬか?」


かったい事言うなってー! とほろ酔いのルパンは、五ェ門に絡む
はそんな二人に苦笑いを零すと、目の前に出されている甘ったるいカクテルに手を伸ばした

こういう所に来るのは、別に嫌じゃない
むしろ、美味しい物を飲めたり食べられたりするから、好きだけれども
大概大介は一人で、ああして飲んでいるから
そんな彼の隣に座る事を、どうてしても躊躇してしまう

そんな事を思いながらは、チラリとその場から見える
次元の背中に、恨めしそうに視線を投げた


「ルパンと二人で来ると、仲良く飲むくせに……何が『俺は一人で静かに飲みたいんだ』よー……」


そんなの呟きは、シックに流れるジャズクラシックにかき消された
ぐい、とカクテルを一気に飲み干す
と言っても、半分ほどしか残っていないそれは、すぐに彼女の喉を通っていった
元々アルコール度数も高くない、彼女専用のカクテルだからであるが

近くを通りかかったウェイターに「同じのをください」とグラスを渡す
若い青年であるウェイターは、微笑んでそのグラスを受け取った
ひっく、と肩を揺らしたの目に、次の瞬間入ってきたのは
赤いマーメイドドレスに身を包んだ、一人の女性が
何の躊躇いもなく、次元の隣に座ったところだった


「ちょ、ちょっと不二子姉さん! あ、あれ!」

「なによぅ……あら、次元もやるわね」

「そうじゃなくって! 何、大介ってモテるの?」

「モテるんじゃないの? とりあえず、男だし」


そう言ってカラカラ笑う不二子の頬は、すでに朱が差している
これじゃあ、まともな反応を得られない
そう判断したは、しょうがなく自分一人で場の成り行きを見守る事にした

まさかの事がある前に、行動すればいい
そう考えたのだ

女は明らかに次元に色目を使っている
上目遣いで何度か視線を送り、体を密着させて
時々、彼の肩に触れてみたり
自分の髪に、次元の指を通させたり

その度、は「ああ!」や「何してんのよ……!」など
一人ただ、少し離れた自分の居場所から、そう小さく叫ぶ事しかできなかった

しかしながら、場数を踏んでいる次元も次元で
うまい事女の誘惑をさらりさらりと交わしていく
一度操を立てた相手、がいるからだろうが
軽く笑い、女の手を払い除ける

そうこうしているうちに、の気も少しずつ抜けてきた
しかしながら、同じように時間が経過している女の方も、痺れを切らしたのか
ついに強行手段に出てしまった


「あっ!!」


女は、ぐい、と次元の顔を自分の方に向かせると
無理矢理唇に、自分の唇を押しつけた

不意をつかれた次元は、思わず口を開けてしまい
そこに女の舌が入り込んだ

目の前で進行していく事態に、の頭の温度が
徐々に、沸点へと近づいていく
事の次第に気づいていない、他の面々はケラケラと笑っている

だんっ! とテーブルを叩き、が立ち上がった
それにようやく気づいた三人は、目の前の光景を見て青ざめた
以前にも似た様な状況になった時、その場は一面
次元の血の海と化したのだ


「お、おい! 落ち着けって! 今回ばっかりは次元が悪いんじゃねぇって!」

「そ、そうでござる! 不可抗力と言うものであってアレは決して……」

「とりあえず座りなさいよ」

「黙って!!」


その怒声で、バーの中が一気に静まる
もちろん、次元や次元にキスをした女も
女に到っては、自分達の方に無表情で近づいてくるに対して
挑戦的な笑みを浮かべていた


……俺は何もしてねぇぞ」


今だ襟元を女に掴まれたまま、次元は情けなくそう言う
次元の横に立つはただ、カウンター越しにいる店員に一言


「とにかく強いお酒一杯」

「は?」

「すぐに出して。この店で一番強いお酒」


もう、周りの人間にはこれから何が起こるのか想像すらつかなかった
次元が女諸共酒を浴びさせられるのか

ああなってしまったに、触れるべからずと
助けを求め視線を投げてきた次元を、無視してちびちびと酒を飲み進める三人
「薄情者!」という叫びが聞こえたとか

カウンターに出された、琥珀色の液体
小さなグラスに注がれたそれを、は握りしめると
一気に自分の体へと注ぎ込んだ


「なっ……! お前それ、度数65だぞ?!」


次元が慌ててそう言うが、はなんの事なくそれを飲み干した
「もう一杯」とグラスを戻す。店員は、そんなの気迫に押され
大人しくもう一杯、琥珀をグラスに注いでいく

は今度、その酒を半分程度口に含んだ
含んだままは、女の手を払い除け女と次元の間に立つ
自然と次元が、を見上げる形になった

度数の高い酒を飲んだせいで、頬が赤い
涙目で自分を見下ろすに、征服欲が駆り立てられる次元

刹那、が次元の頬を掴みそのまま唇を落とした
またもや不意打ちの事に、次元の口が開く
そこから、高アルコールの酒が流れ込む
酒と同時に侵入してきたのは、紛れもなくの舌


「……おい、不二子。これは夢か?」

「いいえルパン、現実よ」

「拙者にも見間違いとしか思えん光景が見えるんだが……」

「だよな。まさか、あの次元がよぉ……のキスに押されてるんだぜ?」


はっ、と息継ぎをする度送られる快感が、次第に次元を支配していく
こいつ、どこでこんな技覚えてきたんだ?! と思うが
体全身、全神経に与えられる快感に抗えない

一分間半、その行為は続いた
怒声の後に続いた、女性の高アルコール酒一気飲み
そして、濃厚なキスシーン
それらにその場にいた全員が釘付けだった


「はっ…、お前どういうつもりだ…」


肩で息をしている次元を、まだ無表情のまま見下ろす
平然と、顔を赤くしたまま息一つ切らしていない


「消毒」

「は?」

「ちょっと、そこの人」


呆然とする次元を放っておいて、は反転し女に声をかけた
女も目の前で繰り広げられた、キスシーンに半ば意識を飛ばしていて


「な、何よ!」

「この人はね、私のなの。私以外がこの人に触っちゃダメなの。私以外がこの人を感じさせちゃいけないの」


分かった? と首を傾げる
女は反抗できなかった
の背中に、般若の影が見えたんだとか

「返事は?」と促すに女がただ、こくこくと頷く
満足したように頷くと、はもう一度次元を見る
相変わらず彼は呆然としたままだ


「もう一回する?」


顔を近づけ、そう言うにやっと次元の意識が戻ってきた
慌てて「やめろ!」と叫ぶ次元
そんな彼を見て、はふにゃっと笑うと、バタリと彼の胸へとダイブしてしまった


「な……コイツ、寝てやがる……!」

「あららぁ、ちゃんたら」

「てめぇら! 見てねぇでなんとかしろ!」

「他力本願はいけませんよーう、次元ちゃん?」


やっぱりカラカラと笑うだけの三人を、次元がギンと睨みつけた
それでもやはり、彼の腕の中ではがすやすやと寝息をたてている


「お前ら覚えておけよ……こら、お前もだ」

「んんー」


少し揺すってそう声をかけても、やっぱりは満足そうにもう一度寝息を立てるだけ
勘弁してくれよ、と情けない次元の声が
また演奏され始めたジャズに、消されていった










Kiss Me My Darlin