私の好きな人はすごく年上で、いつだって冷静沈着
割かし女の人と接触が少ない、そんなクールな人で
そんな人より、うんと年下の私は、いつだって子ども扱い
子ども扱いされる事がすごく悔しくて、あの手この手で責めてみても、何の反応もない


「お帰りなさい! 大介」

「おう、まだ寝てなかったのか?」

「まだ、十二時だもん。寝ないよ」


そう拗ねれば、わしゃわしゃと頭を撫でられる
いつだってほら、そうして子ども扱いするんだから

ルパン達と一緒に旅するようになって、もうずいぶん経つ
私その間に何回も誕生日を越えて、もちろん他の皆だってそうだ
なのに、私だけいつまでも皆に追いつけない

少しでも大人として見て欲しくて、無理矢理飲めるようにしたお酒も
にはまだ早い」って取り上げられる
不二子さんと同じような服を着ても、色気にくらりと来てくれるどころか
笑い飛ばされる始末

どうしたら私のこと、女の人として見てくれるの?

前に、そう聞いたら大介はただ笑って
「お前はもう充分女だろ」って言ったけど
そんなの全然、納得できない


「まだルパン達は帰ってきてないけど……ご飯食べる?」

「いや、飯はもう外で食ってきたからな……シャワーでも浴びて、今日はもう寝る」

「分かった。じゃあ今準備するね」


そんな会話を交わして。狭いお風呂場に向かおうと、大介の横を通った
刹那香った、大人の匂いに気づく


「……香水?」

「げっ」


振り向けば、しまったと言う顔の大介
ずかずかと近づいて、抱きついて胸に顔を埋める
より一層リアルになる香水の匂い
悲しさと虚しさで、一杯になる


「今日仕事だって言ってたよね?」

「今度盗みに入る場所の下見で、そういう所に行っただけだ」

「……そういう所?」


どんどん墓穴を掘る大介に、今度は怒りが込み上げてきた
バッと離れるとソファに向かう
いつもならここで、殴る蹴るの暴行に走るけれど
それをしない事に、大介がキョトンとしている

不意をついて、この部屋で一番大きなクッションを思いっきり投げつけた


「ぶっ?!」

「この馬鹿大介! 変態! 痴漢! スケベ!」

「なんで下見に行っただけでそこまで言われにゃいけねぇんだよ!」

「そんなに匂いが移るくらい、近くでデレデレしてたんでしょ!」

「ったく……そうやってすぐ拗ねるトコが子どもだっつうんだ! 大人の女ってのは、浮気の一つや二つ、笑って許すんだよ!」


その言葉で、口はピタリと固まってしまった
口が止まったと同時に、今度は目から涙が溢れる
大介の、バツの悪そうな顔が潤んで見えなかった


「浮気って…わ、私達別にっ……付き合ってないじゃんかぁ! 私の……片想いだもん……っ!」

「おい、……」

「近寄んないでよ変態ぃ!」


手を伸ばしてきた大介の股間を、思いっきり蹴り上げて
悶絶している彼の横を、走って逃げ出した

外は、雨
傘なんて持たないで、土砂降りの中、一人で走る


路地裏、少しでも雨を凌ごうと入ってみたものの
ほとんどの雨粒が建物から漏れ出し、私を打ちつける
火照って、興奮した頭と体がどんどん冷めていった


「本当に……馬鹿で子どもだなぁ……」


きっと、大介は呆れてる
呆れて、きっと私のことなんて嫌いになっちゃうんだ

にゃあ、と聞こえて、下を見れば
小さな猫が、私を見上げている
小さな体が、今の惨めで心も体も小さい私にソックリだ

しゃがみ込んで、頭に触れれば
子猫の頭は私と同じで、びしょ濡れ
抱き上げて、そんなに濡れていない胸元にしまい込んだ


「君も私も……まだまだ子どもだね」


好きな人に構って欲しくて、振り向いて欲しくて必死に努力した
でも、彼が好むのは、構ってあげたくなるのも振り向いてしまうのも、自然とこなしてしまう
綺麗で大人な、そんな女の人。私なんて元々土俵が違ったんだ

また、涙が溢れた
冷たい雨雫に負けない勢いで、熱い涙がぽたぽたと落ち続ける


「風邪ひくだろ」


低い声が、耳に届く
いつの間にか私の周りだけ、雨が止んでいて
振り向いて、上を向けば傘を広げた大介が、見下ろしていた


「……大、介」

「ったく、こんな大雨の中出てく馬鹿、どこにいんだよ」


はぁ、と溜息を吐いて私を見る
立てよ、そう言って私の腕を掴んで。無理矢理立たせられた
にゃあと子猫はもう一度鳴くと、腕からサッと走り出して行った


「……なんで追いかけて来たの」

「何でってそりゃお前……」

「子どもで、浮気も許せないようなあたしなんて、放っておけばいいじゃん!」


どんっ、と大介の胸を叩く
溢れ出す気持ちも、声も、涙も、もう抑えられない


「どんなに頑張ったって、努力したって、大介が女の人として見てくれないんだったら、意味ない……!」

「ちょ、やめろ

「こんなに好きなのに! いつだって私の気持ちからかってばっかりで!」

!」


傘が、路地裏のアスファルトの上に着地する
壁際に押さえつけられて、一瞬睨まれたかと思った次の瞬間

息ができなくて
苦しくて開けた口の中に、何か別のものが入ってきた

熱い、何かに翻弄されて
それでも確かに見出せたのは、与えられる快感
つうぅ、と伝った物が雨の雫なのか唾液なのかは、分からない


「……なんだって俺はこんなお子ちゃまに」

「こんなお子ちゃまにって」

「大体お前は無自覚過ぎるんだっ! どれだけ俺が我慢してやったと思ってんだ?」


壁際に押さえられたままで、そう言われて
焦った大介の表情なんて見た事なかった

都合のいいように、取ってもいいんだろうか
普段から、そういう言葉は言わない人だから。これが精一杯の告白だって
そう思っても、いいんだろうか


「綺麗な、大人がタイプだって言ってたじゃん……」

「タイプと、惚れるのとは違ぇ」

「でも、今までの恋愛遍歴見ても、綺麗で大人な人ばっかでしょ」

「……だぁ! お前は何が言いてぇんだ!」

「ちゃんと、好きって言って」


泣きそうなのを我慢して、そう言えば
苦虫を噛み潰したような表情になる
そんなところも、大好きだよ


「一度しか言わねぇからな!」

「うん」

「……お前のこと、愛してんだよ」


初めて見た、照れた表情に笑った
笑うんじゃねえよって、凄むけど。もう効かない
そう言ったら、お返しだって首筋に小さな痛みを与えられた


「あーあ、これからの我慢が辛いぜ」

「なんで我慢するの?」

「なんでって……」

「我慢しなくてもいいよ……?」


呆気に取られた顔、その後すぐに不敵に笑う大介
「どうなっても知らねぇぜ」と顔を近づけてくる
目を閉じて、それを受け入れる準備をした


空はいつの間にか、怖いくらいに晴れ渡っていた










I'm Fuckin' Lover