バレンタインデーに告白した。

彼は普段あまり見せない目を真ん丸にして、咥えていた煙草を落とす程驚いていた。
告白はもちろん、とびきり豪華なチョコレートを添えてした。
甘い物があまり好きそうじゃなかったので、全部ビターにした。

返事は、保留だった。

同じ屋根の下で過ごすから、当然やや気まずくなる訳で。
私は至って普通にしていたけど、彼の方が反応が違った。
ルパンや五ェ門が彼にどうしたのか聞いたらしいけど「なんでもねぇ」の返事ばかりだったらしい。
だから私の所に来て、色々聞いていくので、ただ一言


「バレンタインデーに、大介に告白しただけだよ」

「ほー告白ねえ。ちゃんが次元に……告白ぅ?!」

「お主、それは真か?!」

「うん」


やっぱり、普段の私からは想像もできなかったようで、二人はとても驚いていた。
それからルパンは面白そうな事を思いついた顔をして、それを嗜める五ェ門がいた。



ホワイトデーがやって来た。

ルパンと五ェ門にも義理チョコを渡していたので、二人ともお返しをくれた。
ルパンはどこからか盗ってきた、ヴィンテージ物のテディベア。
五ェ門は洋菓子店にわざわざ出向いて、ケーキを買って来てくれた。
それから二人は「後は次元とお楽しみにな」と言って、アジトを出て行った。

二人が出て行ってからしばらくして、部屋から大介が出て来た。
キョロキョロと辺りを見回して「ルパンと五ェ門は?」と尋ねる。


「出かけたよ」

「……そうか」

「朝ご飯、食べる?」

「おう」


コーヒーを淹れて、トーストと目玉焼きを焼いて、サラダを盛りつけて完成。
それをふたり分用意して、テーブルに持っていく。

静かな朝食が始まって、大介は新聞を読みながら朝食をとっている。
私はトーストのサクサクとした食感を楽しんでいた。


「……今日、どっか行くか」

「いいの?」

「ああ。……先月の礼もまだだしな」


私を見ないで、大介が言う。照れ隠しなのがバレバレだ。
だって、耳がほんのり赤い。
ずっと年上の人だと思ってた。とても大人なんだと。
でも、案外可愛いところもあるんだな、とトースト齧りながら思った。


私達はそれから、街の外れにある移動遊園地に来ていた。
どこに行きたいか聞かれたから、そこだと答えたら「ガキみたいだな」と笑われた。


「遊園地なんて、久しぶり」

「そうなのか?」

「皆といるようになってからは、初めてかな」


カラフルなアトラクションに、笑みが零れる。
平日の昼間という事もあってか、人はまばらだ。
すぐ近くで売っていた綿飴を買って、それから観覧者を指さした。


「あれ乗ろう」

「いいぜ」


ゆっくりと、隣にいられる事を楽しんで歩く。
歩調を合わせてくれるから、無理をする事もない。
こういう、さりげない優しさに惹かれたんだ。

係員に小銭を渡して、ふたりで小さなゴンドラに乗り込む。
徐々に景色が上に上がっていて、あっという間に人が小さくなった。


「なあ」

「うん?」

は……俺なんかの、どこがよかったんだ?」


帽子の下にある、まっすぐな瞳に射抜かれる。
私は目を合わせて、それからまた外を見た。

さりげない優しさはそうだけど、何より不器用なところに惹かれたのかもしれない。
優しさなら、ルパンも五ェ門も持っている。
だけど、大介の優しさはとても不器用で。
相手に気づかせないようにしていて、でもどこかでやっぱりその優しさを感じずにはいられなくて
それは私もそうだからなのか。


「似ているって思ったの、私と」

「そうか?」

「それだけじゃないけどね。大介だから、好きなの」


そう言葉にするだけで、満面の笑みになれる。

大介が、ポケットをごそごそと探る。
それから、ラッピングされた何かを私に投げて渡した。


「……キャンディ?」

「バレンタインデーのお返しだ」


ホワイトデーのお返しにはそれぞれ意味がある。
マシュマロは「あなたのことが嫌い」
クッキーは「友達でいよう」
キャンディは。


「ねえ、お返しの意味、知ってる?」

「……ああ」


キャンディの意味。
僕もあなたが好きです。


「本当に、不器用だねぇ」

「お前は器用だな。泣きながら笑うなんて」


手の中で揺れるキャンディの瓶に、私達の顔が映り込んだ。










ホワイトデーの告白









Title by Fortune Fate「ValentineDay&WhiteDay 2」