次の獲物の下見に、大介と私がルパンから抜擢された
最初は喜んだものの、美術館の名前を聞いて目の前の顔を殴りたくなった

だってそこは、年中人で溢れかえって一枚の絵や一点の宝石を見るのに
待ち時間が発生するような、とても有名な美術館だったから


「面倒な事ばっか押し付けやがってアイツ……」


大介の声が途切れがちに聞こえる

私の数歩先をスタスタと歩く大介に、声を掛けようとしたら人に遮られた
まだ目的の美術館にすらたどり着いていないのに、すでに道は人で溢れかえっていて
なんだかんだで、久しぶりにふたりきりになれたのを喜んでいた私は、どこかへ行ってしまった


空いている両の手が少し悲しくて、見えなくなる背中を必死に追いかける
それがなんだかまるで、お互いの気持ちがまだ通じる前の事を思い出させて
柄にもなく、じんと鼻の奥が痛んだ

必死に振りかぶったそれは、どうやら当たってはいけない人に当たってしまったようで
「ああん?」と威勢のいい声で振り返った大男は、私を見下している


「う……すみません……」

「なんだ姉ちゃん、人にぶつかっといて詫びだけで済むと思ってんのか?」

「えっと、その……」


キョロキョロと周りを見るが、大介の姿はなくて
ああもうダメだ、視界がじわじわ歪んでいく
その間も、頭上では「ああん?」という声が聞こえる


そもそも私はいつだってダメなんだ
ドジばっかり踏むし、みんなに心配ばっかり掛けるし
お荷物で、いらなくて、それでもって


「……ほんと、すみま、せん」

「ああん? 姉ちゃん、なめ、てん、のか……」

「俺の連れに何か用か?」


大男に隠れて見えないけど、多分この人の後ろに大介がいるんだろう
男の人が怯えている。きっと背中にマグナムでも突きつけてるんだ
「な、なんでもないっす」とすごすごと、体を小さくして彼は人ごみの中に消えていった

「ったく、体に似合わず小心者だな」

「大介……」

、お前もちゃんとついて来いよな」

呆れたようにため息を吐いて、やれやれと言ったように首を振る
それが決定打になって、私の瞳からぼたぼたと涙が零れ出した

「おわっ!?」

「わ、私だって、頑張って、みんなのために、って……えぐ……」

「なんなんだよ!」

「大介がどんどん、先に、行っちゃうから、でしょー! わーっ!」





くくらいなら離すなよ!






そう言って強めに握られて、引っ張られる左手
目の前には大介の背中

涙はもうすぐ、止まりそうだ





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