パトカーのサイレンの中を走り抜けて
見知らぬ土地でのカーアクションの後、私達は散り散りに逃げた
執拗に追ってくる、ルパンの宿敵である銭形警部
どうせまた、ルパンだけを追うだろう、と高を括っていた

それが今、どうしてだか私は一人、牢屋越しに銭形警部を見ている


「……油断した」

「がっはっは! 、お前も運が悪いな!」


嬉しそうに大笑いする銭形警部を見ていると、すごく泣きたくなってきた
きっと、私を囮にでもして、ルパン達を誘き寄せるつもりだ

でも

私は牢屋から見える月明かりと、周りを見渡して不安に駆られる


「どうだ? 最高の技術で作られた牢屋の居心地は?」


意地悪そうに聞いてくる銭形警部のせいで、本当に泣きそうだ
そっぽを向いて、その質問に答えなかったら
また銭形警部は嬉しそうに笑った

今、私が捕まえられている場所は、今までと桁違いの牢屋で
多分、他の皆が捕まった事ないくらい、最悪な意味で最高の場所

なんで、よりによって私がこんな所に入ったんだろう
きっと皆だったら自力で出れるのに


「どうせ、私はここから自力で出れませんよーだ」

「そうだろう。お前を助けに来たルパン達をここで逮捕してやる!」


そうすれば、お前も寂しくないだろう? なんて
変なところに気を遣ってくれるなら、もっと他の事に気を利かせて欲しい
すると、銭形警部は誰かに呼ばれたみたいで、私に
「逃げるなよ! ま、逃げられたらの話だがな」と念を押して
どこかへと去って行った

牢屋と呼んでいいのか戸惑うくらい、機械的で綺麗な牢屋
私は備え付けのアルミ製のベッドに、体育座りをする
膝をギュッと抱え込んで、頭をそこに押しつけた


「馬鹿だなぁ……」


こんなお荷物じゃ、いつ皆に愛想尽かされるか
考えただけでもひどく悲しかった
聞こえる妙な機械の音、無駄に明るい室内に入る月明かり

ルパンだったらすぐに抜け出せる、大介も五ェ門も不二子さんも
だけど私は?
こうやって、膝を抱えて子どもみたいに泣いて
誰かの助けを待っているだけ

その事がすごく情けなくて
後から溢れてくる涙を堪えられなかった


!」


どこからか、大介の声がした
幻聴かな? こんな時まで大介の声って、私は
苦笑いが零れつつも、やっぱり涙は止まらない


! 聞こえてるだろ! !」


今度はもう少し大きな声で呼ばれる
おかしいな、と思って顔を上げて辺りを見回す
けど、牢屋の外にも、もちろん目の前にも大介はいない


「……大介?」

「そっちじゃねえ、こっちだ!」


月明かりの射す窓を見た
そこには、鉄の棒越しに私を呼んでいる大介がいて
思わず声が出そうになった
だって、ここは地上から200m近い場所にあるから

慌てて駆け寄り、そこから見える大介に聞く


「ど、どうしてそこにいるの?」

「どうしてって、お前を助けに来た以外、こんな所に来る訳ないだろ」

「だってここ、地上から200mくらいあるんだよ?」

「ヘリから吊ってるんだよ」


そう言って大介は自分の上を親指で指した
耳を澄ませば、確かにプロペラが回る音が聞こえる


「なんで、そこまで危ない事して……捕まったのなんて、油断した私が悪いのに……」


溢れたままの涙が、もっともっと流れ出す
窓枠に置いた手に力が入って、爪が白くなった
頬に大介の指が触れて、顔を上げる


「助けたいって思ったからだ。ただ、そんだけだよ」

「え?」

「面倒くせぇとは思ったが、体が勝手に動いちまうんだから、しょうがねえだろ?」


頬に触れていた手が頭の後ろに来ていて
顔を引き寄せられた、唇が触れるギリギリ


「悪いと思うなら、もう捕まるなよ。こっちがどんだけ肝冷やしたと思ってんだ」


うん、と答える前にはもう、唇が触れていた












キスの前にお願い一つ









Title by 恋したくなるお題「キスの詰め合わせ」