彼は、とても高く飛ぶ。高く、高く、天にも届きそうな程。
まるで羽が生えているんじゃないかと、疑ってしまいそうになる。
その掌は、力強く球を打ちつける。そして叩きつける。
仲間と共に喜び、勝利の雄叫びをあげる様は、本当に言葉では言い表せられないくらい、輝いていて。
彼の、本当の居場所は、ああ、あそこなんだな、とつくづく実感する。

練習試合の帰り道、ふたりでひとつの傘に入っていた。
当たり前だけど、旭の方が身長が高いので、必然的に彼が傘を持つ。
代わりに、私が彼の鞄を持つ。


「重くない?」

「んーん、大丈夫」


ちらりと私を見て、そう言う彼にそう返す。
心配性の彼は、やっぱり自分で持つよ、と言うので私は鞄を抱きかかえている。


「旭より小さくても、私の身長は平均サイズだからね。鞄二つくらい、どうって事ないし」


それよりも、びしょ濡れになっている旭の肩の方が心配だ。
体が資本なのに、そんな事してどうするんだ。
私が濡れたところで誰も困りはしないけれど、彼がいなくなったら困る人はたくさんいる。
そう言うと、彼は泣きそうな、困ったような表情を浮かべる。
なんでそんな表情を浮かべるんだろうか。


「風邪ひいたら、登下校、一緒に行けなくなるだろ?」


だからか、と納得した途端熱くなる頬。
それを見て、彼も照れたように笑う。



「結構楽しみなんだよ、一緒にこうやって帰ったりするの」

「……私だけだと思ってた」

「え?」

「楽しみにしてたの、私だけだって」


雨に隠れて、本音を吐露してしまう。
ぽたり、雫が零れ落ちる。

傘を持っていない方の冷たい手が、私の頬を拭う。
それから、顎を軽く持ち上げられて、私達は傘に隠れてキスをした。


「……旭?」

「俺の居場所だから、ここは」


そう言って、私を見つめる熱っぽい目は、あのコートの中と同じ目をしていた。