どうやら今抱いている感情は、冷血ですら全部食い尽くすのに追いつけないようで
我ながら呆れる。そして、それを知らずにのんびりとしているこいつ
俺の恋人であるに、少々危ない気持ちを持ってしまう


「あ、髪の毛全部色戻ってるね。今気分いいの?」

「……ああ、まあな」


口調も、いつもみたいな穏やかな自分じゃない、本来の少々ぶっきら棒なものになる
軽やかな鼻歌が聞こえる。それはが奏でている
ぱらぱらと本のページを捲る音、鼻歌、一見すれば平和なシーンだ

今の状態と、俺の抱いている感情を除けば


が突然、夕食の後にしたい事があると言うから、何も考えずに快諾した
片づけをふたりで済ませ、に手を引かれ寝室に向かう
ベッドに座らされ、足を開くよう言われた

その時点で、一体何をされるのか分からなかったが
次の瞬間飛び込んできたを咄嗟に抱き留めた
そしてそのまま、彼女は俺の脚の間に座った
俺の胸に、背を預けて


所謂、人間座椅子だ


どうやら鈍辺りが仕込んだらしく、試しに一度やってみたかったらしい
そして思いの外これが心地よかったらしく、ずっとこの体制だ

身長差があるから、さして辛くはないのだが
色々な試練が、俺を襲ってくる


が動く度、香るシャンプーの匂い
触れている部分から伝わる体温
胸元がやや開いたシャツを着ているせいか、下を向けば……
いや、これ以上は俺の沽券に関わる

ぐ、と首を反らし見まいとするが
そうしていると首が辛い
まっすぐ前を見ていても、寝室にテレビは置いておらず何もない
そして下を見れば、桃源郷がある


「……、そろそろ」

「あ、逸人、疲れちゃった?」

「あ、ああ……」


ごめんね、とぱっと彼女が離れる
予想外にそれが寂しく感じてしまう自分がいた
いやしかし、これでようやく心の平穏が戻ってくる

そう思いきや


「じゃあ、今度は私の番ね」


ベッドに座り、足を軽く開いて両手を広げている
だらだらと汗が流れていくのを感じた





嗚呼もうべてしまいたい!





「んん、もう少し下行って……うん、ここがちょうどいい!」

の両腕が俺の胸の前でクロスする
俺は今、背中をの足の間に置いている状態だ


(ここからだと、下ち……沽券に関わるっ!)


結局俺の心に平穏は、当分訪れなかった











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