ただ望んだのは二人が無事だという事
どちらかだけじゃない、どちらともがよかった
だって私にとって二人ともが大切な人だから

なのに神様は残酷で
私の大切な一人を傷つけて、もう一人を私から遠い所に連れて行ってしまった


「ダンテ!」


廃墟のもっと奥から見えた赤いコートと、白いシャツ
私はその隣に青いコートもいるのだと。そう当たり前に思っていた

けれど、その隣にいるのは彼女だけで
どこにも私の求めた青いコートの人物はいない
ダンテの表情が、レディの表情が
認めたくない事を私に無理矢理、納得させるようだったから
私はそれを振り払うようにダンテに駆け寄った


「――バージルは?」

……」

「ねえダンテ、バージルは?」

「兄貴は……」


ねえどうしてそんな悲しい顔をするの?
どうしてレディは何も言わないの?
ダンテの赤いコートにはまだ生温い血液が付着していて、心なしかその血液はダンテと似通っているように思える
どこにも見当たらない愛しい人の面影は、ダンテとレディの憔悴し切った瞳の中からだけしか見いだせなくて
「どうして」と「なんで」しか頭に浮かばない
廃墟の崩れる音と、私が崩壊する音が重なった


「バージルは? ねえダンテ、バージルは一緒なんでしょ?」

『俺と共に来るか?』

「だって約束したもん! 必ず帰ってくるって!」




『……いや、お前に魔界は似合わないな』

『じゃあ、私を置いていくの……?』

『それはしない』





「私と一緒にいてくれるって! 「ここ」で一緒に生きて行こうって約束してくれた!」


魔界よりも、もっともっと穢れたこの地上で、二人で
決して汚れる事なく、ただ単純に力を求めたあの人と私で、一緒に生きていこうと、誓った
テメンニグルの中、人間の私を救ってくれた彼が
私と一緒にいる事で、何かが変わった彼が誓ってくれた言葉
それが破られるなんて、思いたくなかった


「どうして、なんであの時……私を置いて行ったの……!」


ダンテのコートを握りながら、ズルズルとその場にしゃがみこむ
こんな事になるなら、あの瞬間バージルの手を離すべきじゃなかったんだ
どんなに怒られても、絶対に離さなければもしかしたら今、彼は私を抱き締めてくれていたかもしれない


『この先は俺一人で行く』

『どうして?』

『この先は、力のないお前では危険すぎる』

『……でも』

『なんだ』

『私は、バージルと離れたくない。なんか、離れたらもう二度と……会えない気がする』

『……案ずるな、俺はそこまで弱くはない。それに』

『でも』

『俺はお前が傷つくところをもう二度と見たくない』


私の言葉を遮って、バージルはそう言った
その顔が、声が。あまりにもそれまでの冷酷な彼から想像も出来なくて
自分の為ならどんな犠牲をも厭わない彼が、私一人なんかのために辛そうにしてくれた事が
何より嬉しくて。でもそれでも不安は拭いきれなかった


『だったら』

『なんだ』

『約束して? 必ず私の所に帰ってきてくれるって』


ほんの少しだけ微笑んでくれて、それから頷いてキスをくれた優しい人
だから私はそれを信じて一人、寂しい塔を下りたのに
何故今あなたはここにいてくれないの?


ボロボロに泣き崩れた私を、ダンテは強く抱き締めた
痛いくらい、苦しそうに息を漏らす私に構わず彼は力を込める
体温の低かったバージルと違って、ダンテの体は温かくて
その違いが余計に私を刺激して、ますます涙は溢れるばかり


「兄貴……お前に伝えてくれって、言ってたことがあるんだ」

『もし、俺が地上に帰れない事にでもなったら』

「闘う寸前に、敵の俺にだぜ? アイツ真顔で言いやがったんだ」


に伝えてくれ。俺が生涯かけて愛するのはお前一人だと、必ずお前のもとに帰ると』


バージルと同じ顔のダンテが、彼と同じ声でそう告げる
まるで、魔界から彼が囁いてくれているようで


「バー、ジル……っ!」



寂しさに負けて私が死んでしまう前に
お願いだからその約束を果たして、と
今はもう姿の見えない愛しい人に願った










が枯れる前に