今日は待ちに待ったハロウィンの日だ。
この日のために、ダンテと街中のお菓子屋さんを巡ってより集めたお菓子達。
バージルは呆れた顔をしていたけれど、関係ない。

事務所の中を、オレンジ色や紫や黒などで飾り付けて
手作りのジャック・オ・ランタンに火を灯せば、あっという間に部屋の中はハロウィンムードだ。

テーブルの上に、所狭しと並べたお菓子の山。
げんなりとした表情のバージルが、向かい側にいる。


「よくこんなにも集めたものだな」

「いいでしょ、欲しいって言ってもあげないからね」

「まさか、これを一人で全部食べるつもりか?」

「そうだけど。あ、少しくらいはダンテにも残しておくよ」


こんな日なのに、ダンテは急な依頼が来てしまい、お仕事に行ってしまった。
お菓子の山を名残惜しそうに出発したダンテの顔は、今思い出しても笑ってしまいそうだ。

私が淹れてあげた紅茶を飲みながら、一緒には食べてはくれないけれど、付き合ってくれるバージルには感謝だ。
甘い匂いにややげんなりはしているけれど、嫌な顔はしないでくれている。
そんなさり気ない優しさが、私は好きなのだ。


「いただきまーす」


きちんとした食事ではないけれど、一応手を合わせてから食べ始める。
ケーキにチョコレート、キャンディにマシュマロ、パチパチはじける物や舌の色が変わるお菓子なんかもある。

ここぞとばかりに、色々と手を出しては摘まんで食べてを繰り返す。
その間に、バージルがハロウィンの起源とか、意味合いなんかを話してくれていた。
私にも分かりやすく説明してくれるから、とても面白い。

時々、ストレートティーで口の中をすっきりさせて、それからまたお菓子を食べる。



「よくそれだけ入るな」

「甘い物は別腹!」

「別腹と言っても、今日はまともな食事をしていないだろう」

「今日はこれがメイン」


やれやれと首を振るバージル。
なんだか面白くなくて、手に持っていたロリポップを彼に向ける。


「はい」

「いらん」

「はい!」


そう言って、やや無理矢理彼の口の中に突っ込んだ。
甘い物がそんなに得意ではないので、しかめっ面になる。


「おいしいでしょ?」


もごもごと口を動かす。棒を持って、口の中からロリポップを取り出した。


「甘い」

「お菓子なんだから、当たり前」


どうやらその物言いと、無理矢理食べさせた事が気に入らなかったのか、バージルの眉間に皺が寄る。
やりすぎたか? と思っていると、おもむろに立ち上がり、私の横にやってくる。
不思議に思って、彼の顔を見上げると、その端整な顔が下りてきた。

目を閉じる暇もなく、唇が重なる。
ふわりと香る、グレープの匂いは、きっとバージルに食べさせたロリポップの味だろう。

一瞬で離れていく距離。しかめっ面のままのバージルはやっぱり「甘い」と呟くと、席に戻る。


「帰ってきたぜー! 俺のお菓子はどこだー!」


勢いよく事務所の扉が開いて、ダンテが帰宅する。
振り向いた私の顔は、きっと真っ赤だっただろう。









御菓子より甘いキス









Title by 瑠璃 「春夏秋冬の恋20題 秋の恋」