冬の朝、目覚めは厳しいものだった
それが最近、温もりと共に目覚めるようになった
理由は、ひとつだけ


ふわふわの毛布の中、ゆるゆると瞼を上げると陽の光を浴びているベージュのカーテンが目に入る
鳥のさえずり、人の声。私の腰回りには逞しい腕が巻きついていて
その腕の持ち主を起こしてしまわぬように、そっと寝返りをうった

いつもはバックに流されている髪は、流れていて
長い銀色の睫毛に縁どられた瞳は、瞼に隠されている

温かい腕の中で目覚める事が、こんなにも幸せだと教えてくれたのは
世界でただひとり、バージルだけだった


夜はふたり一緒の時間にベッドに潜り込み、朝は大抵私の方が早く起きる
最初の頃は背中を向け合って眠っていたけれど、いつの間にかこうして
彼の腕の中で朝を迎えるようになった

白い頬に指先を伸ばして、そっと触れる
低い体温が伝わり、自然と笑みが零れた

ぴくぴくと瞼が揺れ、ゆっくりと瞳が開かれる


「……おはよう」

「ああ……」


まだ半分夢の世界なのか、返事は少し間の抜けた感じがする
それさえも愛おし過ぎて思わずキスをしそうになってしまう

バージルはもう一度瞼を閉じる
それから、私の腰に回していた腕を、そっと自分の方向へと引っ張った
体ごと、引き寄せられる
後頭部と腰に手を回され、まるで宝物を抱きしめるような優しさで彼は力を込めた

「もう少し……このままで」

柔らかい声でそう言われ、なすがままだ


普段、言葉も少ない彼はあまり愛情表現をしない
それを別段不安に思った事はないし、そういうバージルを私は愛している

けれども、こうして
ふとした瞬間、彼の気持ちが見えるのも、とても幸せで
噛み締めるように私も、彼の腰に手を回す

毛布の外に出ている耳は、部屋の外気に触れていて冷たい
けれどもぴたりと密着している箇所は、どこも温かくて
覚醒した筈の意識が、また次第に微睡んでいく


ずっと、このままこうして、抱き締めて欲しいような
それでも、瞼を開けて見つめて欲しいような

君が起きたら、またもう一度おはようを言おう
今日はいい天気だから、ふたりで買い物にでも出掛けよう
きっと今日も、幸せな一日になる