ふかふかのソファがずしりと沈む。私の重みだけじゃなくて、もうひとりの重みを受け止めたから
そのもうひとりは長い足を器用に組むと、ぱらぱらと分厚い本を捲り始めた
ふわりと古い紙の匂いに混じって紅茶の香り。サイドテーブルに乗せられたふたつのティーカップ
いつだったか私は、彼の淹れてくれた紅茶が一番好きだと言ったような気がする


後ろの方でダンテが、ガチャガチャ銃をメンテナンスする音が聞こえる
そうすると隣にいるのは必然的に彼の相方(こういうとすごい顔をして私を睨んでくる)である、バージルが座っている


キョロキョロと、読んでいた雑誌から目を上げて辺りを見る
いつもながらただっ広い事務所。趣味の悪い骸骨やらお面やら
他にもスペースはあるのに、彼はいつも一人掛けなら余裕があるこのソファに座る
とても窮屈な思いを私にさせながら


ついでにいうと、この仏頂面をした悪魔と人間のハーフに恋しちゃったりしている私の心臓は
これでもかってくらいに血液を体中に送ろうと必死になって、とんでもない早さで鐘を打っている
そのうち心臓発作でも起こって死ぬんじゃないかってくらいに


雑誌にまた目を戻して、文字の羅列を読む
ああでも、隣の雰囲気が気になってしょうがない


バレないように、こっそり、そっと、しなやかに雑誌ごしにバージルを見る


陶磁器みたいな白い肌、すっと通った鼻筋、アイスブルーの綺麗な瞳
薄い唇は一文字に結ばれていて、滅多に開かれる事はない

嫉妬したり羨む気持ちすら浮ばないくらい整っている
同じ顔でもダンテにはドキドキしないのは、やっぱりこの人が好きだからだろうか


試しに振り返ってダンテを見る


手入れ用の油か何かが鼻の頭についている。まるでパズルを解いているみたいに銃を弄繰り回す顔は
異性というより弟みたいに感じてしまって、思わず小さく笑った



「おい」



急に隣から声が聞こえた。明らかにバージルのものだ
落ち着いてきた心臓が、ばくんと体の中で跳ねた


平静を装って「なに?」と視線を投げれば、ずいっと紅茶の入ったカップを差し出された
ちらりと顔を窺えば、相変わらずの無表情で私を見ている

そんな顔にすらドキドキしてしまうのは、最早重症だと我ながら思う
「ありがと」と呟いて、震える手で受け取った



「あ、珍しい。今日はフレーバーティーなんだね」



口の中で香ったのは、苺の甘い香り
普段はダージリンやセイロンとかなのに、どうしたんだろう
そう思って顔を向ければ、すでに分厚い本へとその視線は下ろされていた
なんだか少し寂しさを感じつつ、また一口紅茶を飲んだ

じんわりと広がる温かさに、目がまどろんでくる
飲み干して空になったカップを両手で包んで、うとうとすると
私はすぐに夢の世界へと飛んでしまった





すっかり寝てしまったは、バージルの肩に頭をあずけてムニャムニャと寝言を漏らす

あらかじめ持ってきていたのか、どこからかブランケットを取り出しそれを彼女の膝にかけるバージル
顔に掛かっている髪を整え、その寝顔を眺める
本人は気がついていないがとても穏やかな表情で、の顔を見つめていた

そんなふたりを後ろから眺める男は思う









じれったい奴等め









さっさとくっついちまえよな、と聞こえないように呟いたダンテだった




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