たまには外食もいいな、とあなたが言うから、今日はレストランで夕食だった。
おいしいイタリアンを食べて満足そうな私に、微笑みかけてお店を後にする。
アパートまでの帰り道、手を繋いでぶらぶらと歩く。

夏が来て、昼間はとても暑いけれど、夜は風は吹くと心地いいくらいで
時々吹く風に瞼を下ろすと、そっと優しくキスを落とされた。
恥ずかしくって、あなたの腕を軽く叩くと、本当は嬉しいんだろ? とからかわれた。


「もう、本当にレオンてば……」

が瞼を下ろすから、そういう事だと思ったのさ」


私の頭を撫でて、今度は頬にキスを落とす。
どうしようもない幸福感に包まれて、私もどうしようもないのだと悟る。


「ああ、今日は星が綺麗に見えるな」


そう言って、レオンが指さす先には、夏の大三角があった。


「あれがベガ、それでアルタイル、デネブだな」

「それくらい知ってる。ならベガとアルタイルの、日本での呼び名は知ってる?」

「知らないな」

「織姫に彦星」

「ああ、タナバタってやつか」

「そう、私達みたいな……」


その後は言葉にならなかった。

俯いて、涙を零してしまった私を、隠すようにレオンは抱き締めてくれた。

日本に住む私があなたと出逢ったのは、まるで運命の悪戯のようで
レオンが任務で訪れていた国で、クーデターに巻き込まれた私。
それを助けてくれたのが、他でもない彼だった。

忙しい合間を縫って交流を重ねていくうちに、魅力あるレオンに惹かれない筈がなかった。
奇跡的に彼も私と同じ気持ちでいてくれて、愛を育むようになった。
でもそれはとても細い糸のようなもので、いつか簡単に切れてしまうのでは、と不安でしょうがなかった。

メールだって電話だって、数え切れないくらい交わしているのに
抱き合った回数は、両手で足りるくらいで。

あなたは「まだ俺達は出逢ったばかりだろう?」と言ってくれるけれど
写真と電子文字でしか触れられないあなたの断片に、不安は拭えなくて。

年に一、二回訪れるこの国に、まだ慣れる事はなくて。
でも、別れるという選択肢は、私の中に出てくる事すらない。


「……いっその事、全て捨てて、俺のところに来てしまえばいいのにな」

「……そうだね」


今はまだ、それはできないけれど。
でもいつか必ず、この腕の中に飛び込むと決めているから。










夏の大三角を指差す










Title by 瑠璃 「春夏秋冬の恋20題 夏の恋」