我ながら穴が開くんじゃないかと思う程、彼を見ていた。
寝ぼけ眼で起きるところも。朝食代わりに冷蔵庫から林檎を取り出して、適当に磨いてかぶりつくところも。
扉についているポストから新聞を取って読むところも。


「……おい」

「ん?」

「さっきからなんで睨んでんだよ」


新聞に向けていた瞳を私に向けて、人のことは言えないような目で私を見る。
人の愛をこめた視線を睨みだと勘違いするとは、とても失礼だ。


「睨んでないよ」


明らかに腑に落ちないという態度でふん、と鼻を鳴らすとまた新聞を読み始める。

今日はお互いに仕事も予定も、何もない珍しい日で。
ふと思い立って、恋人であるジェイクの観察を始めてみた。

結局、私の視線を分かっていながらも、害がないと判断すると何も言わなくなって。
それをいい事に存分にジェイクを観察した。

新聞を読み終ると意外や意外、丁寧にそれを畳んでテーブルの上に置いた。
思い返せば確かに彼が読んだ後の新聞は、いつもきちんと畳まれていた事を思い出す。
それから、ナイフを手入れしたり誰かと連絡を取ったり、買っておいた雑誌を読んだり。
私に一度も視線を寄越す事なく、彼は一日を過ごしていた。

もしかしたら、とても優しい眼差しを私に向けてくれていたりするかな、なんて期待していたのに。
肩透かしを食らった気分で、俯いてバレないようにため息を吐いた。
指をくるくる回したり、交差させたり意味のない事を繰り返す。
少しだけ顔を上げて、こっそりジェイクの様子を窺った。

顔を上げた事に気がついていないのか、ジェイクが私を見ている。
その目にはほんの少しの優しさが混じっていて。頬杖をついて私に視線を投げていた。
嬉しくなって思わず完全に顔を上げると、すぐさまジェイクはそっぽを向く。


「ジェイク」

「なんだよ」

「……ううん、なんでもない」


きっと指摘すれば照れてしまって、今後そういう事をしなくなってしまうかもしれない。
それはとても寂しい事なので、言うのを止めた。

その後も、今度はあからさまにではなく、こっそりとジェイクの観察を続けた。
そうすると、チラチラと私の様子を見ている彼がいて。
まさかその姿まで観察されているとは思っていないのだろう。にやけてしまう頬を必死に抑えた。

その後もジェイクは時々私を見ていて、そんな彼を密やかに観察し続ける私がいて。
夕刻を過ぎて夕飯を摂り、シャワーを浴びてベッドに入る。

彼の腕を枕にして、天井を見ているジェイクの横顔を見ていた。
不意にその顔が動いて、青い目が私を射抜く。


「で、結局は今日一日何がしたかったんだよ」

「……怒らない?」

「……場合による」


すでに若干怒っている気がしたけれど、隠しても隠さなくても結果は同じような気がしたので、白状した。


「ジェイクのこと、観察してた」

「観察?」

「うん」


照れ臭さと恥ずかしさをごまかすように、小さな笑みを零す。


「あっそ」


それだけを言うと、また天井に顔を向けて目を閉じた。


「……怒らないの?」

「別に。怒るような事じゃないだろ」


私は知らなかった。
実は普段、彼も同じような事を私にしている事を。





君の観察をしていたと言ってみる





Title by Lump「実験」