俺の目の前には、飾られた小さな箱がひとつ。
これが、今朝からの頭痛の種だ。

珍しく、クリスマスに休暇が取れた。
ジルには「どうせ予定なんてないんでしょ?」と笑われた。
けれど、まさかのまさかで、予定があったのだ。


「クリスさん、クリスマスは仕事?」

「いや、今年は休暇が取れたんだ」

「何か予定はあるの?」

「特にないよ」

「なら、一緒にディナーどう?」


隣に住むにそう誘われたのは、休みが確定してすぐにだった。
他に予定がなかった俺は、特に何も考えずにOKの返事をしたが
よくよく考えれば、クリスマスに誘われるという事の意味を分かっていなかった。

クリスマスは今まで大体仕事だったから気がつかなかったが、家族や恋人同士で過ごすこの日。
要は特別な日である事を、失念していた。

に気の利かない男だと思われたくなくて、慌てて買いに行ったクリスマスプレゼント。
女性物売り場には、俺と同じような男性がたくさんいた。
皆、必死に首を傾げて色々と物色していたが、俺も同じだった。

よくよく考えれば、彼女の好みを、俺は知らない。
隣に住んでいて、時々会話を交わすくらいで。
それこそ、今回みたいにディナーに誘われる事もあったけれど、特に進展らしい進展なんてなくて
そもそも俺は、彼女とどうなりたいんだろう。

太陽みたいに笑って、いつも俺の愚痴を聞いてくれる。
俺にとって癒しでもある彼女との、少ないけれど確かに存在する時間。
その時間がずっと続けばいいと、俺は思っている。
も、同じ気持ちでいてくれているだろうか。

そんな事を考えながらショーケースを見て回っていると、ひとつのペンダントを見つけた。
それがとても、まるで俺の中のを形容したような物だったから。
店員に声をかけて、プレセント用だと伝えた。


***


ベルを鳴らせば、奥から足音がする。
玄関扉が開いて、ひょっこりとが顔を覗かせる。


「いらっしゃい!」

「ああ、お邪魔するよ」

「もう料理はできてるの。後は食べるだけ」


彼女の後について行く。そう広くない、俺の部屋と同じ作りの部屋に案内される。
椅子に座ると、目の前にオードブルを出される。


「今日は特別だから、張り切っちゃった」


普段のの料理も美味いけれど、この日のは本人が言うように特別だった。
俺は出る物全て平らげて、それを彼女は嬉しそうに眺めていた。

デザートのケーキをつついている時、が深刻そうな顔をして、背中から何かを出した。
それは、小ぶりな黒いシックな箱だった。


「こ、れ……クリスマスプレゼント」


深刻そうな顔は、照れ臭そうな表情になっていた。
俺は「ありがとう」と言って、それを受け取る。


「お店で見つけて、クリスさんみたいだなって思ったの」


まるで、俺も同じ事を考えていた。それが嬉しくなって、逸る手を抑えながらプレゼントを開けた。
そこには金色のジッポライター。正面に太陽の絵が刻印されている。


「私にとって、クリスさんは太陽みたいな人だから」


頬をピンク色に染めて、笑うに、なんて言えばいいか分からなかった。


「俺からも、クリスマスプレゼントがあるんだ」


そう言って差し出した、あの頭痛の種。
彼女の目が輝いて「開けていい?」と聞かれたので、頷いた。
それを見て、君はなんて言うかな。





手渡したプレゼント





Title by 瑠璃「春夏秋冬の恋20題 冬の恋」