一体いつから私はここにいるのか
一体なんの為に私はここにいるのか
何も分からないまま、ずっとここに繋がれている

無機質な部屋、真っ白なベッド、部屋の中だけを自由に行き来できる長さの鎖
剥き出しの便器が牢屋を思わせるけど、ここは怖い程清潔だ
その証拠に、ご丁寧にバスルームまでついている
窓がないから曖昧な時間すら分からない
銀の壁は鈍く光り、私を映そうとしない
唯一外界とこの部屋を繋ぐ扉は、見ただけでも分かる程頑丈そうで
破ろうとさえ思えない

長方形の扉、上部につけられた小さな窓枠はスライド式になっているけれど
そこが開くのを私は、ここに来てから見た事はない
下の方に、郵便受けのような開閉式の穴があって、そこから食事が出てくる
きっと誰かが運んできているんだろう
ドアノブはなく、何かのパネルにいくつものボタンがついている
触った事はないけれど恐らく、パスワード式で開くようになっているんだろう

天井に、こちらをじっと見るカメラがついている
感情を持たない瞳が私をずっと、監視し続けている



ずくん、と腹が疼き出す
ああ、そろそろあの男がやってくるのか、と体で分かる

ボタンを押す音がして、その後に長い電子音が響く
重い音をたてて、私が触れた事のない扉が開いた

そこに立つのは、全身を黒で包んだ男
眩しい金髪を後ろに流し、その目をサングラスで隠している
黒いタートルネックに、黒いレザーのパンツで長い脚は隠されていて
蛍光灯の光を反射する革靴は、無機質な部屋に私以外の足音を運ぶ


最初の頃こそ、怯えていた私も、もう慣れたもので
ベッドの上、寝そべったまま入ってくる彼を見る事もしなくなった

こつり、足音がベッドの側で止まる
そこで私はようやく彼を見上げた

サングラスに隠された、蛇を思わせる赤い目が私を見下ろしている
そこにあるのはどんな感情なのか
囚われた私への同情なのか、それとも優越感なのか、果たしてなんなのだろう
そもそも、私への感情そこに存在しているのだろうか

「分からない」

「何がだ?」

「あなたも。ここの存在意義も。私がここにいなくちゃいけない理由も、何もかも」

ベッドが私以外の重みで沈む
軋む音を耳で直に感じながら、私の髪を黒い革手袋で覆われた手が梳く
そこにキスを落とすと、私を見る
ぞくりと背中を何かが走る。悪寒か、背徳感か

上質な布を使っているのであろう、私の着ている白い膝丈のワンピースに黒が浸食する
滑らすように布を下から上へと撫でる
感じているのは快感なのか、不快感なのか分からないけれど
何かが体を支配するようにざわめくのは分かっていた

首に到達した手は、まるで締めるように形を変えるけれど、そこに力が込められた事はない
顎を持ち上げられ鼻が触れるか触れないかのところで、見つめられる


「何度でも教えてやろう。お前は、俺に捕えられたんだ」


この言葉を聞く度に、無理矢理引きずり出されるかの如く、鮮やかな記憶が蘇る
目の前の男に捕まる前の、自由だった日々を


どこでにもいるような、ごく一般人だった私
家族もいて、友人も恋人もいた
それがある日、全て奪われたのだ。目の前の男に

家族に、恋人の家に行く事を告げて家を出た
彼の家に着けば、いる筈の家には明かりが灯っていなくて
不思議に思いながら合鍵で中へと入った
そこにいたのは、血の海に立っていたこの男だけで
彼の足元には、恋人だった人がいた

叫ぶ事も、泣く事も許されずに、そのまま拉致された
気がつけばこの部屋で、鎖に繋がれていた
そして、男はこう言ったのだ


『今日から、ここがお前の居場所だ。


そう告げられた時、大声を上げて彼を罵倒した
泣き叫び、何度も彼に掴み掛ろうとした
それらは全て無意味な行動で、彼はいとも容易く私をベッドに組み敷いた
そうして私にこう囁きかけた


『アルバート・ウェスカー。お前を捕えた男だ。そして、お前の所有者だ』


言い終わった瞬間、無理矢理唇を塞がれ、何かを流し込まれた
それは私の体を駆け回り、脳髄を焼いているのかと思う程熱かった
苦しみにのた打ち回りたくても、私を抑えつけている力に敵う筈もなく
どれくらい苦しんだのか分からない、汗だくになった私を離した彼はもう何も言わず部屋を後にした


あの頃の私は、もう面影すら見えない
今の私は、彼―アルバート―に征服されている
ただそれをまだ認めたくない一心だけで、細やかな抵抗はしている

見つめられたままの目を、逸らさずに
近づけられる唇を拒む

「相も変わらず、無駄な事を」

そう言って、顎を掴む手に力が籠められ否応なしに彼の方を向かせられる
閉じた唇を彼の舌がなぞり、噛みつくようにキスをされた
舌が唇を割り、歯列を余す事なく舐め、逃げようとする私の舌を絡め取る
首筋にどちらとも分からない唾液が伝う
流し込まれる液体。熱くなり反応する体
ビクビクと痙攣する私の体を撫でるように抑えつける大きな掌

全てに、脳が麻痺していくのを感じる
頬に手袋の感触がする

名残惜しそうに銀糸が私と彼の口を繋ぐ
プツリ、とそれが途切れると彼は私の口を拭った
私の下腹部に手を置き、それから立ち上がった

「……もうじきだ」

なんの事なのか分からない私は、出て行く彼の後ろ姿だけを見ていた


否、本当は全ての事を、私は分かっているのかもしれない


私がここに連れて来られた意味も
彼がおそらく毎日、私にキスをしにくる事の意義も
腹部に宿る熱も

でもそれを認めてしまったら最後、私は私でなくなってしまう
今の私も、昔の記憶の彼方に行ってしまった私も
そして、いつの間にかアルバートの虜になってしまった私も
消えてしまう、のかもしれない

全て忘れてしまおう、そうして私は眠りに就く
それがどれだけ無駄な行為か知っていて





何日経ったか分からない
何度アルバートとキスをして、液体を流し込まれ、苦しんだか
その日も彼はやって来た

私はベッドに寝そべり、彼はベッドの側で足を止める
今日は彼を見上げる事をしなかった
沈むベッド、軋むスプリングの音、全てがいつも通りだ



頬を掴まれ、彼の方に向けられた
いつもならしている筈のサングラスが、今日はなかった
赤い瞳が直に私を眺めている

天井のカメラを見れば、どうやら電源は切られているようで

これから起こるであろう事を思い浮かべると、下半身が甘く疼いた
求めていたんだろうきっと、ずっと前から
いつの間にか、罠に嵌っていたのだ


上質な布が悲惨な音をたてて破られていく
嫌がる事をしない私に、アルバートは変わらず無表情だった

噛みつくようなキス、舌で抉じ開けられて唾液の交換をする
乳房を乱暴に揉まれて、徐々に勃起していく乳頭
果実のように赤みのあるそれを摘まれて、喉の奥から嬌声が出る
首筋を、彼の舌が這う。それは次第に降下していって摘まんでいたそれを口に含んだ
転がすように刺激されれば、ひっきりなしに声があがる
脇腹を撫でる手は、手袋の感触ではなく肌の感触だ

ショーツを剥ぎ取られ、覆い茂った恥丘を撫でられる
ひっ、と上擦った声が出て頬に熱が集まる
焦らすように、太ももの付け根と恥丘を行ったり来たりする掌

「……っも、やあっ……」

「期待しているのか?」

その言葉に羞恥心に駆られる
もどかしい甘い疼きは止まらない。どうすればいいかも分からない
必死に、首を縦に振った
すると、軽く唇にリップ音がたてられて、その後にはしたない程の水音が響く

「あ、ああ、あっ!」

「ここか……」

中を掻き回されて、ピンポイントで攻め立てられれば声は止む事なく部屋に木霊する
絶頂間近で、指が引き抜かれた
空虚感に顔を上げようとした瞬間、想像もしなかった質量の挿入に声が飛ぶ

「……っ!」

彼の背中に手を回して、爪を立てた
生地の上を滑る爪はきっと、彼の背中に赤い痕を残しているだろう

がつがつと、まるで肉食動物に捕食されているかのように、激しい律動
飛びそうになる意識をなんとか保って、彼の瞳を見る


赤い瞳の中に、何かの、見た事のあるような感情を垣間見た


「あぁ、あ、はん! あ、るばっと……!」


意識が飛ぶ刹那「」と名前を呼ばれたような気がした
そして、その時にされたキスが、私の最後だとも










Which was capture











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