浮気をする程の暇や時間は、彼にはない
だけれども、恋人という身分である私がいるにも関わらず
他の女の人の写真を持つのは、どうかと思う
しかも、私には内緒で

例えばデートをしたり、キスをしたり
そんな事を浮気とまとめるのなら、これは心変わりとでも言うのだろうか

私は、レベッカ・チェンバースの写真を眺めながら、自分のデスクに突っ伏した


秘密裏に動いているこの組織
そして、その中でも特に秘密扱いの私宛に届いたこの写真は、ご丁寧にも封筒に入れられていた
「これは、お前の恋人であるアルバート・ウェスカーのS.T.A.R.S.所属当時のデスクから見つけられた物だ」
と書かれたお手紙も同封で

本人に確認をすれば済む話だ

彼がS.T.A.R.S.所属当時から、私達は関係を持っていた訳で
だから、彼がその当時から彼女に気があるとしたら
これは列記とした心変わり、もしくは私がキープと言う事になる

それを自分で確認するなんて事を、したくはなくて
けれども、胸の中に渦巻く嫉妬だとか怒りとか
何よりも涙が溢れてきてしまうほどの、哀しみが治まる気配は一向にない


「アルのばぁーか……」


いない彼に文句を言ったところで、意味のない事
仮に、この場に彼がいれば「お前の知能が私以上だとは思えないが」と
嫌味と皮肉をグチグチと言われるだけだろう

大体、なんで彼が私を恋人として選んだのか
そこからまず、不思議が満載なのだ

彼の周りには、彼がアンブレラにいた頃から今に至るまで
モデル並の体形を持つ美女や、レベッカのように可愛らしい女の人まで
よりどりみどりの女性がいた、と聞いている
現に、彼の仕事のパートナーとして一番接しているのは、紛れもなく美女のエイダ
どこを見ても平凡で、せいぜいそこら辺の女よりは計算ができるくらいの私

どうして、彼は私を選んだのだろう


『私の恋人になる気はあるか?』


問いかけのような命令を聞いてから、もうずいぶん経つ
今でもどうして、あの時彼があんな事を言ったのか分からない

別に、彼が私を好いているなんて噂もなかったし
確かに私は彼のことを、異性として意識はしていたけれど
それを組織の誰かに漏らした覚えもない

昔の事を思い出しても、今の事に思いを馳せても
答えなんて出る筈もなくて。だからこそ、涙も止まらない訳で
気づけば瞼は、石を乗せられたように重くなる





「……、

「う……ん?」


蛍光灯の白が眩しい
私はいつの間に、ベッドで横になっていたのだろう

瞬きを二、三度して、聞こえる声に耳と首を傾けた
なぜかそこにいたのは、胸中渦巻くこの感情を生み出したアルで
驚きで目を大きく見開いた


「……デスクで寝る程、研究にでも没頭していたのか?」

「いや……ちょっと考え事してたら、寝ちゃって……」


アルはサングラスを外すと、枕元にあるチェストに置く
その指が、今度は私に近づいて髪を撫でた
この動作は、キスの合図

目を閉じようと、視線をずらすと
彼の手の中にある物が見えた


「あ!」

「……どうした」

「その写真」

「これがどうかしたのか?」

「……S.T.A.R.S.にいた頃の机の上から、見つけたって、私に届いた」


彼はそうか、と言うとなんの躊躇いもなくその写真をダストボックスに投げ入れた
うまい事ボックスに捨てられた写真。そして、唖然とする私


「捨てていいの?」

「構わん。組織に送るレポートに添付する予定だった写真だからな。もう必要ない」


そう言い、もう一度キスをしようとするアルの顔を手の平で止めた


「今度はなんだ」

「あの……彼女に、なんかその、気持ちとか、感情は無かった……の?」

「ある訳ないだろう。あの頃から私の隣にいるのは、お前だからな」


当たり前に言う彼に、やっと肩の荷が降りる
訳が分からないようで、些か不機嫌になりかけているアルの唇に軽く触れた



後日、あの手紙の送り主が判明した
どうやら熱烈なアルのファンらしく、恋人である私が気に入らなかったようで

そこで初めて、事の顛末を知った彼は酷く憤慨していた
だが、流石に敵でもない、ましてや自分のファンである者を始末するのは彼も気が引けたらしい

話を知ったエイダから、こんな話を聞いた


「そう言えば、ウェスカーってペンダントをつけているそうね」

「え? そうなの?」

「ええ。しかもそのペンダントの中に、写真を入れてるとか」

「……まさか、レベッカの写真?」

「違うわ。あなたの写真よ」


医務室で手当てを受ける際に、そのペンダントを外したのはいいものの
落ちてしまったそれが開いてしまい、挙句の果てそれを目撃したのはエイダだったようで


「そう言えば、ペンダントしてたような」

「いつ見たの?」

「夜に。でも、普段暗くしてる、から……ってエイダ!!」


さもおかしいと言わんばかりに笑う彼女に、私は顔を赤くする

そのうち、私もお揃いのペンダントでもプレゼントしてもらおうかと、そんな事を考えた