10月31日は言わずとも知れたハロウィン。私の職場も例に漏れずハロウィンにあやかって
トリックオアトリートの声が聞こえる
ついでに、仲間の面々は仕事が終われば、軽い仮装なんかもしたりして
それはそれは楽しいハロウィンパーティーが開かれる
毎年それが楽しみな私は、今年もたくさんのお菓子を持って出勤した


「おはようジル、今日はまだ事件とか発生してないの?」

「ええ、この前の報告書ばっかりよ」


やれやれ、とまだ出勤していないクリスのデスクを忌々しそうに見るジル
彼以外の面々も、各々の仕事を始めていた

ふと、一番端に置いてある隊長のデスクに目を向けると、珍しくまだ出勤していないようで
「隊長は?」と自分のデスクに腰掛けながら、ジルに問う


「さあ? 特になんの連絡もないみたいだけど」


ジルの声の後に、廊下の方からどしん、どしんと鈍い音が聞こえてきた
咄嗟に身構えると、一度音が止む
そして、ゆっくりとオフィスの扉が開いていく

見えたのは、ジャックオーランタンをかぶって大きな段ボール箱を持った


「……ウェスカー隊長?」

「またクリスの奴は遅刻か……」


カボチャの下から、くぐもった隊長の声が聞こえてくる
いつもと同じような科白なのに、それを発している姿は普段の彼からは想像もつかない姿だ
ざわざわと、他の隊員たちも騒ぎ出すが、それすら聞こえていないかのように
隊長は自分の定位置に着く

机の横に置かれた段ボール箱の中身は、大量のお菓子だった
しかもどれもがハロウィン仕様の、可愛らしいもので
これをスーパーで隊長がどんな顔をして買い込んでいたのかと考えると、笑いが込み上げてくる
それは他のみんなも一緒なようで、必死に笑いを堪えている

かの本人はどこ吹く風、早速書類に目を通している
けれども相変わらずカボチャはそのままで
それが余計に笑いを誘う。ブラッドに到っては堪えすぎて、涙目になっていた


「た、隊長……その、格好……」

「今日はハロウィンだろう。仮装だ」


声は真剣そのものだ。なのに見た目のギャップが激し過ぎて、もう爆発寸前だ
「急にまたどうして……」とジルが絶句している
絶句しているものの、その口元はひくひくと歪んでいる


「約束しただろう、

「へ? 私ですか?」

「去年のハロウィンの時、お前が私に言ったんだろう」


そう言われて、はてと思い返す
去年のハロウィンも、今日と同じようにお菓子を抱えて出勤した
みんなも今日と変わらずだった。隊長を除いて

去年の隊長は、普段通りだった。特に今日みたいな突飛な仮装もせず
いつもと同じ隊服で出勤した。もちろん、その腕にお菓子の入った段ボール箱もなかった
到って普通、普段通りだった

それを見た私は、何の気なしに隊長に発言したかもしれない


『せっかくのハロウィンなのにつまんないですよ! お菓子の貰い甲斐もないし……』


「あ……」

、なにか言ったの?」

「うん……ちょっと」


「お前が原因か?!」という視線に、思わず口ごもる
まさか自分のせいで、隊長がこんな突飛もない行動を起したなんて
申し訳ない気持ちで辺りを見回してから、もう一度隊長を見る


「……ごふっ」


堪えきれずに漏れた笑いを誤魔化すため、大袈裟な咳をする
私の何気ない一言で、こんな事態になるとは











ハロウィンの奇跡











その後のパーティでは、終始隊長は私の横で無言だったけど、楽しんでいたのだろうか
他のみんなは触らぬ神に祟りなしだったけど、私は好きなお菓子をたくさん貰えたので良しとしよう


Title by BLUE TEARS「ハロウィン5題」